「症状固定」の概念について

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Q1.交通でケガを負った事案や、労災事故の事案などの損害賠償において「症状固定」という言葉が使われることがありますが、そもそも「症状固定」とはどういう概念ですか。
A1.
 「症状固定」とは、一通りの治療がなされたにもかかわらず、これ以上良くならないような状態に達したときと説明されます。労災保険における「障害等級認定基準」(昭和59年9月30日労働基準局長通達)では、「傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法をもってしても、その効果が期待し得ない状態で、かつ、残存する症状が、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態(症状の固定)に達したときをいう。」とされています。また、「病状が安定し、薬剤や理学療法などの治療により、症状の一次的回復が見られるにすぎない場合を医療効果が期待できないものと判断する」とされています。


Q2.症状固定の概念が用いられるのはどのような場面ですか。
A2.
 治療効果が期待できない状態であることを前提にしていますので、症状固定後の治療費は、原則として事故との相当因果関係がある損害とはいえなくなります。従って、加害者側の保険会社が、被害者に対し、治療費の支払い手配を終了するときによく使われます。
 また、将来にわたって残存症状の状態が続くことを前提に、被害者側としては、症状固定時期をもって将来の損害が確定できることになります。そこで、後遺障害の逸失利益(得べかりし利益の喪失)の問題、後遺障害の慰謝料の類型化の問題になっていきます。


Q3.よく加害者側の保険会社から、被害者に対し、病院への治療費支払い手配を打ち切る旨の連絡があり、被害者がこれを受け入れるか否か問題になります。
A3.
 保険会社は、病院から毎月の診断書・診療報酬明細書が送られてきますし、疑問があれば病院に対し医療照会をして患者の臨床症状を把握しますので、そういったことから、当該患者の症状固定時期の評価をしやすい立場にあります。もっとも被害者としては、痛みが継続しているのに治療費の支払い手配を打ち切られると大きなストレスを感じる場合もあります。そこで、保険会社には被害者とのコミュニケ―ションを十分にとり、身体の痛みと医療効果についての丁寧な説明が求められます。


Q4. では、被害者と加害者の間で症状固定の時期が争われた場合、どのような点を考慮してその時期を定めるのですか。
A4.
 症状固定時期の判断については、まず、基本的に医師の判断が尊重されます。医師は、当該傷病に関する医学的知見を踏まえ、直接被害者の治療、経過観察に当たり、当該被害者がどのような症状経過をたどってきたのか、当該被害者は一般的な症状経過のどの段階にあるのかなどについて検討し判断しているからです。具体的には、医師の当該患者の臨床症状に関する診断書や後遺障害診断書における症状固定日の記載欄が参考になります。


Q5.医師の記載した症状固定日が妥当とは思われない場合はどうするのですか。
A5.
 裁判実務では、医師の臨床所見を参考にしながら、症状固定の判断はあくまでも法的評価の問題であるとされています。そして、下記諸事情を考慮して、医師の判断の合理性を検討することが肝要とされています。
 ① 傷害及び症状の内容(例えば、神経症状のみか否か)
 ② 症状の推移(例えば、治療による改善の有無、症状が一進一退か否か)
 ③ 治療・処置の内容(例えば、治療は相当なものか、対症療法的なものか、治療内容の変化等)
 ④ 治療経過(例えば、通院頻度の変化、治療中断の有無等)
 ⑤ 検査結果(例えば、他覚的所見の有無)
 ⑥ 当該症状につき症状固定に要する通常の期間との比較
 ⑦ 交通事故の状況(例えば、衝撃の程度等)