個人情報保護と診療情報(カルテ等)の取扱いについて

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Q1、私(Aさん)の父が認知症に罹患し病院の診療を受けているのですが、二男である私から父のカルテ等の開示を要求することができますか。ちなみに、私は父と同居しておらず、父の面倒は長男夫妻が看ています。
A1、
 たとえ患者の親族であっても、患者の同意がない限り、原則として診療情報の開示請求は認められません。医療機関には、民事上の守秘義務、個人情報保護法による遵守義務があるからです。もっとも、同居の親族であれば、患者の黙示の同意が推察される場合があり得ますので、開示するかどうかは総合的に判断されます。


Q2、では、父が亡くなり、遺族である二男の私からカルテ等の開示を要求する場合はどうでしょうか。

A2、
 死亡した患者の情報を遺族が請求した場合、医療機関は、法律上当然に開示請求に応じる義務はありません。もっとも、厚労省個人情報ガイドラインでは、患者の配偶者、子、父母及びこれに準じる者からの開示請求については、患者本人の生前の意思、名誉等を十分に尊重しつつ、診療録や死亡原因についての情報を提供すべきとされています。

従って、遺族であるAさんからのカルテ等の開示請求は認められる可能性があります。


Q3、私(Bさん)は、仕事が原因でうつ状態となり長期欠勤していますが、勤務先会社が病院や産業医に診療情報の提供を直接求めたいと言っています。請求は認められますか。
A3、
 病院が患者の同意なく診療情報を提供するのは違法です。開示は患者の書面による同意を要します。

他方、産業医は、患者との診療契約に基づく医療従事者の立場と、企業から社員の診療の委託を受けるという立場があります。従って、企業が就業規則その他の規定によって、社員の個別同意が不要と定め、それが社員に周知されている場合は、企業は社員の個別の同意を得ることなく産業医に診療情報の提供を求めることができます。

※ 産業医とは、事業場において従業員の健康管理を行う医師で、労働安全衛生法では、50人以上の従業員を使用する事業場では選任しなければならないとされています。


Q4、私(Cさん)は、かつて交通事故に遭い病院に通院していたのですが、交通事故の加害者側の保険会社が病院に対し、私の治療がいつまで続くのか問いあわせ、病院がこれに答えたことがあります。このようなことは許されますか。
A4、
 加害者側の保険会社は、被害者である患者Cさんと利害関係が対立する存在です。従って患者Cさんの同意がない限り、医療機関が情報を提供することは守秘義務違反、個人情報保護法違反となります。
 もっとも、保険会社は、被害者が病院に通院する当初、被害者から診療情報の提供について同意する旨の書面を取り付け、これを病院に提出している場合が多いので、病院はこの同意書を前提に保険会社に回答することができます。Cさんは保険会社に同意書を提出したか否かよく確かめてください。ただし、以上は患者の同意が合理的に認められる場合であって、患者が反対の意思を表明している場合は、たとえ通院当初に同意書が差し入れられていたとしても、医療機関は診療情報を開示することはできません。