Q1.A社は同族経営で社長が株式の70%を、社長の長男が5%を保有していますが、経営に関与していない叔父が15%、叔父の子が5%、社長の弟が5%の株式を保有しており、株式が親類縁者に分散しています。社長は長男に事業承継を考えていますが、各株主において長男への事業承継に異論が出る可能性があります。どうしたらよいですか。
A1.
円滑な事業承継のためには株式をできる限り集中させる工夫が必要です。叔父や弟さんに相続が発生すると、そこからさらに株式が分散しますのでこれを防ぐことが必要となります。
相続により株式が分散することを防ぐ方策として、相続が発生した場合に、会社が対象株式を強制的に買い取ることができる「相続人に対する株式売渡請求制度」(会社法174条)を利用することが考えられます。この制度を利用しようとする場合、定款にその旨を定めておく必要があります。この制度では、例えば経営に関与していない叔父が亡くなった場合、その相続人から強制的に株式を買い取るなどの対応ができ、株式の分散をある程度防止することができます。
※ただし、いわゆる配当可能限度額(≒利益剰余金)の範囲内でしか買取りができませんので、利益剰余金が足りない場合、この制度は機能しません。
Q2.A社の社長には三人の子がいて社長に万一のことが起きた場合、社長の70%の株式が三人の子に分散するかもしれません。そうなると長男の会社経営に影響が出ると思いますが、どう対処したらいいでしょうか。
A2.
少し時間をかけて対策する必要があります。一つは、後継者である長男への株式の生前贈与です。もう一つは長男に株式を相続させる遺言の作成です。もっとも遺産の中の株式評価の割合が高いと、他の方の遺留分(※)を侵害することも考えられます。
※「遺留分」とは、亡くなった人の遺産相続人に最低限保障される遺産取得分のことです。例えば、もし亡くなった人が長男にだけ遺産を相続させるように遺言を書いていたとしても、長女や二男は一定額の金額の取り分があることを言います。
そこで、いわゆる種類株(※)の一種である議決権制限株式を利用する方法が考えられます。例えば、議決権制限株式を新たに発行し、遺言でこれを長男さん以外の方に相続させ、後継者である長男さんのみが議決権のある株式を相続する方法です。ただし、不公平にならないように、議決権制限株式には配当優先権を付与するなどの配慮も必要です。こうすると株式は分散しますが、議決権は後継者に集中しますし、長男さん以外の方も株式は相続するのですから、その方の遺留分を侵害する可能性も少なくなります。
※「株式」とは、株式会社の社員としての地位や権利のことです。普通株を保有する株主は、株主総会における議決権の数や、配当において、保有する株式の数に応じて平等の取り扱いを受けます。種類株式とは、普通株式とは権利の内容が異なる株式のことです。種類株式の例としては、剰余金の配当が優先される株式や、株主総会において議決権を行使できる内容を制限した株式などが挙げられます。
Q3.A社の社長は、叔父及び叔父の子の株式を買い取りたいと考えていますが何か方策はあるのでしょうか。
A3.
平成26年に「特別支配株主による株式等売渡請求」制度が制定されました(会社法179条)。この制度は、議決権の9割以上を保有している株主(これを「特別支配株主」といいます)が取締役会の承認議決を得ることを条件に、他の少数株主の株式全てを強制的に買い取ることができるというものです。
既に分散してしまった株式を再集中させたいなどの場合、議決権の9割までを確保したうえで、売却に抵抗する株主からは、この手法により買取るといった利用が考えられます。