第1 制度の概要と背景
代表取締役等住所の非表示措置は、商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)によって創設された制度であり、令和6年10月1日から施行されています。
この制度は、一定の要件の下、本来的には登記に記載すべき登記事項となる株式会社の代表取締役、代表執行役又は代表清算人(以下「代表取締役等」といいます。)の住所の一部を登記事項証明書や登記事項要約書、登記情報提供サービスに表示しないこととする措置です。
具体的には、市町村名まで表示し、あとの地番は書かないという対応です(ただし、東京都内なら特別区まで、指定都市なら区までの表記となります)。
会社の代表者の住所は、登記事項であるため法人登記を見れば誰でも確認することができますが、自宅の住所が全てオープンになってしまうということに対する抵抗感や、個人情報保護の観点からの問題提起もあり、起業される方にとって一つのハードルになっているというような指摘もあったため、法務省において検討を進めていたということです。
第2 手続の概要
1、非開示措置の要件
(1)登記申請と同時に申し出ること
非表示措置の申出は、設立の登記や代表取締役等の就任の登記、代表取締役等の住所移転による変更の登記など、代表取締役等の住所が登記されることとなる登記の申請と同時にする場合に限りすることができます。
また、代表取締役又は代表執行役の重任の登記や本店を他の登記所の管轄区域内に移転した場合の新本店所在における登記であって、既に登記されている代表取締役又は代表執行役の住所から変更がない場合であっても、非表示措置の申出をすることができます。
(2)所定の書面を添付すること
非表示措置の申出に当たっては、以下の区分に応じた書面の添付が必要 となります。
A.上場会社である株式会社の場合
〇株式会社の株式が上場されていることを認めるに足りる書面
代表取締役等住所非表示措置の申出をする株式会社の上場に係る情報が掲載された金融商品取引所のホームページの写し等が該当します。この場合、株式会社の商号に加え、設立年月日や代表取締役の氏名など、既に登記されている事項と同じ内容が記載されているものを添付することになります。
B.上場会社以外の株式会社の場合
以下の①から③までの書面が必要となります。
①株式会社が受取人として記載された書面がその本店の所在場所に宛てて配達証明郵便により送付されたことを証する書面等
例・株式会社が受取人として記載された配達証明書
・登記の申請を受任した資格者代理人において株式会社の本店所在場 所における実在性を確認した書面
②代表取締役等の氏名及び住所が記載されている市町村長等による証明書
例・住民票の写し
・戸籍の附票の写し
・印鑑証明書
③株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面
※なお、株式会社が一定期間内に実質的支配者リストの保管の申出をしている場合は添付不要です。
例・登記の申請を受任した資格者代理人が犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号)の規定に基づき確認を行った実質的支配者の本人特定事項に関する記録の写し
2、非表示措置の終了
以下の場合においては、登記官が職権で代表取締役等住所非表示措置を終了させることとなります。
①代表取締役等住所非表示措置を希望しない旨の申出があった場合
②株式会社の本店所在場所における実在性が認められない場合
③上場会社でなくなったと認められる場合
④閉鎖された登記記録について復活すべき事由があると認められる場合
第3 注意事項
1、会社代表者の住所の証明に支障
非表示措置が講じられた場合には、登記事項証明書等によって会社代表者の住所を証明することができないこととなるため、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増えたりするなど、一定の影響が生じることが想定されます。
そのため、代表取締役等住所非表示措置の申出をする前に、このような影響があり得ることについて、慎重かつ十分な検討が必要です。
2、会社法の登記義務は免除されない
非表示措置が講じられた場合であっても、会社法(平成17年法律第86号)に規定する登記義務が免除されるわけではないため、代表取締役等の住所に変更が生じた場合には、その旨の登記の申請をする必要があります。
3、情報が提供される可能性はある
非表示措置が講じられた場合であっても、官公署からの請求等に応じ、対象となった住所の情報を提供することがあります。
以上