未払い婚姻費用と財産分与における清算

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Q1 未払い婚姻費用とはどのようなものですか
A1  
 夫婦が別居した場合、それまで同一であった家計が別々になるので、収入の多い方が少ない他方に対して応分の生活費を支払う必要があります。これを婚姻費用の分担と呼びます。この婚姻費用の分担請求は、明確に請求したときを基準として支払い請求ができるとされていることから、別居後数年たって請求しても原則として認められないことになります。


Q2 婚姻費用の適正額はどのように算定されますか
A2 
 婚姻費用の算定については、双方の合意があればよいのですが、合意が得られない場合、通常、家庭裁判所での調停または審判によります。そこでは、双方の源泉徴収票や所得証明といった年収の資料や、勤務者か自営業者かといった事情、さらには家族構成や住宅ローン・家賃などの事情も考慮して算定されます。


Q3 離婚における財産分与とは何ですか
A3 
 他方、離婚における財産分与とは、離婚をした者の一方が他方に対して財産の分与を請求することができる制度です。
 財産分与は、(1)夫婦が共同生活を送る中で形成したそれぞれの名義の財産(これを夫婦共有財産と呼びます)の公平な分配、(2)離婚後の生活保障、(3)離婚の原因を作ったことへの損害賠償の性質があると解されており、特に(1)が基本であると考えられています。


Q4 では、別居後数年たって離婚した場合、支払ってもらえなかった婚姻補用を財産分与で清算することはできないのでしょうか。
A4 
 婚姻費用は、婚姻は継続しながら別居する場合の生計費の分担です。 財産分与は、離婚時又は離婚後に夫婦が協力して築いてきた財産を分配することです。したがって、これらの制度は全く異なるものです。
 もっとも、この点について、最高裁判所は以下のように判示しました。

「離婚訴訟において裁判所が財産分与の額及び方法を定めるについては当事者双方の一切の事情を考慮すべきものであることは民法771条、768条3項の規定上明らかであるところ、婚姻係属中における過去の婚姻費用の分担の態様は右事情のひとつにほかならないから、裁判所は、当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解するのが、相当である。」(最高裁昭和53年11月14日判決【民集32.8.1529】)
 もともと支払われるべき婚姻費用が支払われていれば、財産分与の際に分与されるべき財産が異なってくることは当然予想されますから、公平の見地から、存在する財産をどのように分与するかについて未払いの婚姻費用を考慮することは当然といえます。
 この裁判例の原審(東京高裁昭和53年2月27日判決)では、別居後7年以上にわたり、婚姻費用請求権者が自己及び子ども二人の生活費や教育関係費として1000万円近く支出したことが推認されるが、請求者が別居時に300万円の財産を持ち出していることや、婚姻費用請求権者に別居中の年収が156万円ほどあったことを考慮する必要があるとしました。そして、財産の清算分が600万円、過去の婚姻費用の清算額として金400万円が考慮され、1000万円の分与額が算定されました。


Q5 それでは、うっかり婚姻費用の請求をしなかった場合でも、後に財産分与で請求できることになるのですね。
A5 
 婚姻費用分担義務は離婚後には生じないため、過去の婚姻費用の未払い分について、通常の民事訴訟でそれだけを請求することは認められていません。また、過去の婚姻費用を財産分与の対象とするためには、支払義務の内容を確定させておく必要があります。そこで、婚姻費用分担の審判で、未払婚姻費用の存在とその額を確定しておく必要があります。
 やはり婚姻費用は、別居後できる限り速やかに請求を明確にし、かつこれを確定させていくのが望ましいといえます。
 もっとも、うっかり請求を失念してしまった場合は、未払の婚姻費用を離婚時の財産分与において、しっかりと考慮してもらえるよう主張するべきでしょう。