特定株主からの自己株式取得について

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Q1.株式会社における「自己株式の取得」とはどのようなことでしょうか。
A1.
 自己株式の取得とは、企業が一度発行した株式を市場から買い戻すことをいいます。
 自己株式取得は様々な弊害があるとして従前は原則禁止されていましたが、平成6年と平成13年の会社法改正によって、原則として自己株式取得を容認した上で、財源規制と関連する手続き規制、株主平等原則に関する規制等を施しています。


Q2. 株式会社が自己株式を取得できるのはどのような場合でしょうか。
A2.
 会社法は自己株式を取得できる場合として、次のように列挙しています。
①種類株式の効果としての自己株式取得(会社法155条1号、4号、5号)
 取得条項付株式や取得請求権付株式の場合は、種類株式の効果として自己株式取得を行うことが予定されています。従って、要件を満たした場合には種類株式の効果として自己株式取得が行われることになります。

②非公開会社における自己株式取得(会社法155条2号、6号)
 譲渡承認請求がなされた場合にこれを不承認して会社で買い取る場合や、定款で会社の相続人に対する売渡請求を定めたような場合には自己株式取得ができます。非公開会社においては、株主間の信頼関係が重要であり、このような閉鎖性を維持するために自己株式取得が認められます。

③株主との合意による自己株式取得(会社法155条3号)
 株主との合意による取得は、自己株式取得についての原則的な取得の方法です。特定の株主から取得することや、株主全員に対して自己株式取得を行うこともできます。上場会社におけるTOB(公開買付)も自己株式取得の類型の一つと言えます。

④株式の整理に伴う自己株式取得(会社法155条7号~9号)
 単元未満株式や所在不明株主の株式等の株式の整理が必要になった場合に自己株式取得が認められております。


⑤組織再編に伴う自己株式取得(会社法155条10号~12号)
 例えば合併消滅会社が合併存続会社の株式を保有していた場合に、合併により合併存続会社は自己株式取得を行うことになります。このように組織再編に伴って自動的に自己株式取得が生じる場合にこれが認められています。

⑥その他、法務省令で定める場合(会社法規則27条)


Q3. では特定株主からの自己株式取得の手続規制はどうなっていますか。
A3. 
 例えば、相続により兄弟や親族が株主となっている場合に、経営に関与していない株主が会社に対して株式取得を求める場合、自己株式取得が選択されることがあります。このように特定株主からの自己株式取得を行う場合の手続について会社法は以下のような規制を用意しています。


(1)  株主総会決議(会社法156条1項、160条1項)
 特定株主から自己株式取得を行う場合、原則として予め株主総会の特別決議によって、①取得する株式の種類・数、②対価の内容・総額、③株式を取得することができる期間を決定しなければなりません(会社法156条)。自己株式取得は一定期間内に複数回、機動的に行うのが通常であるため、株主総会において自己株式の取得枠を決定することになっています。
 また、自己株式取得を具体的に行う場合は、原則として株主全体に対する勧誘を行うことになります。もっとも、自己株式取得の取得枠を決定する株主総会決議において、特定株主に対してのみ勧誘を行うことを決議することができます(会社法160条1項)。特定株主からの相対取得をする場合は株主総会においてその旨も決議することになります。

(2)  売主追加請求権に関する手続(会社法160条2項、3項)
 特定株主からの自己株式取得を行う場合、他の株主は自己も売主に加えた株主総会議案にするよう請求することができます(売主追加請求権:会社法160条3項)。
 これは、換金困難な株式について売却機会の平等を図る趣旨の制度です。実務上は会社法156条1項、160条1項の株主総会の招集通知と同時に、売主追加請求ができる旨の通知を発送することになります(会社法160条2項、会社法施行規則28条)。そして、原則として、非公開会社にあっては3日前、公開会社にあっては5日前までに売主への追加を希望する株主は売主追加請求権を行使することになります(会社法160条3項、会社法施行規則29条)。

(3)  取得価格等の決定(会社法157条)
 株主総会で決議するのは自己株式の取得枠であり、具体的な取得価格等はその都度決議しなければなりません(会社法157条1項)。具体的には、その都度、ア)取得する株式の種類・数、イ)交付する金銭等の内容・数・金額又は算定方法、ウ)交付する金銭等の総額、エ)株式譲渡の申込期日を決定する必要があります。

(4)  取得価格等の株主に対する通知(会社法158条)
 株式会社は、株主総会の特別決議で定められた特定の株主に対して、取得価格等の会社法157条1項各号の事項を通知することになります(会社法158条、160条)。

(5)  株主による譲渡の申込み(会社法159条)
 会社から通知を受けた特定の株主は、譲渡の申込みをする場合は、会社に対して申込みを行う株式の種類・数を明らかにします(会社法159条1項)。そして、会社法157条1項4号で決定した株式譲渡の申込期日において、株式会社は譲受けを承諾したものとみなされて売買契約が成立します(会社法159条2項)。
 なお、申込総数が取得総数を超える場合は按分比例・端数切捨てにより売渡株式が確定することになるので注意が必要です(会社法159条2項)。