感染症の影響による宿泊施設のキャンセルについて

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 新型コロナウイルスの感染拡大に関する報道が日々続いている今般、まん延防止等重点措置の実施や再度の緊急事態宣言の発令等を踏まえて、楽しみにしていた旅行を泣く泣く断念する方も数多くいらっしゃるかと思います。
 そこで、今回は、新型コロナウイルスの影響により宿泊予約をキャンセルしようとする場合の法律問題について解説します。


Q1、旅行で宿泊を予定していた地域に緊急事態宣言が発令されたため、ホテルの予約をキャンセルしようとしたところ、「宿泊約款に書いてあるとおり、キャンセルはできないことになっている」と言われました。本当にキャンセルはできないのでしょうか。

A1、
 一定のキャンセル料が発生することはありますが、キャンセルを行うことはできます。

<理由> 
ア 宿泊に関する契約では、予約の際、 “ホテルが作成した宿泊約款を契約の内容とする”と表示されていることが一般的であり、その場合、原則的には、宿泊約款に従ってキャンセルの可否を考えることになります(民法第548条の2第1項)。

もっとも、民法によれば、宿泊約款の各条項について、ホテルの宿泊契約という定型取引の「態様及びその実情並びに取引上の社会通念」に照らして、民法の定める信義誠実の原則に反し、相手方である消費者の利益を一方的に害すると認められるものについては、これを「合意しなかったものとみなす」とされています(民法第548条の2第2項、附則第33条第1項。)。

また、利用客とホテルとの宿泊契約には消費者契約法の適用があるので、宿泊約款の各条項が上記のように信義誠実の原則に反し、消費者の利益を一方的に害する場合には、消費者契約法第10条によって、その条項が無効となります。

イ 本件では、ホテル側が「宿泊約款に書いてあるとおり、キャンセルはできないことになっている」と主張しているとのことです。

しかし、一般的に宿泊契約においては、利用者(消費者)側からのキャンセル自体は認めた上で、キャンセルの時期に応じたキャンセル料を支払うこととされているのが通常であって、それが取引の社会通念であるといえます。
 したがって、利用者からのキャンセルを一切認めないとする宿泊約款の条項は、宿泊契約の取引の社会通念に照らし、消費者の利益を一方的に害することから、上記の民法や消費者契約法のルールに照らせば、効力は認められず、キャンセルをすることができると考えられます。


Q2、旅行で宿泊を予定していた地域に緊急事態宣言が発令されたため、ホテルの予約をキャンセルしようとしたところ、「宿泊約款に書いてあるとおり、キャンセル料として宿泊代金の100%を支払ってください」と言われました。請求されたキャンセル料は支払わなければならないのでしょうか。

A2、
 必ずしも全額を支払わなければならないわけではなく、具体的な事情に応じて、その全額または一部の支払を免れことができる可能性があります。
<理由>  
ア 宿泊契約における宿泊約款では、利用者(消費者)が自己の責めに帰すべき事由により宿泊契約を解除した場合、ホテル側は利用者に対して、違約金(キャンセル料)を申し受ける旨の規定が設けられている場合があります。

通常であれば、旅行中止に伴う宿泊のキャンセルは自己都合ですので、利用者の責めに帰すべき事由による解除として、キャンセル料を支払う義務があります。

しかし、今般のように、新型コロナウイルス感染症という未曾有の災禍による緊急事態宣言に基づいて外出自粛が要請されていた状況下では、特定地域への旅行を中止し、ホテルの予約をキャンセルするのはやむを得ないとも考えられます。他方で、緊急事態宣言が繰り返され、再度の発令の可能性について報道等がなされていたことを考慮すると、予約の時期等によっては利用者側の責めに帰すべき事由があるという理解もあり得ます。
したがって、理解の分かれるところではありますが、予約時期等の具体的事情によっては、自己都合のキャンセルには当たらないものとして、キャンセル料の支払を免れる余地があります(本記事執筆時点で確定的な裁判例が存在しないので、今後の動向を見守る必要があります)。

イ また、仮にキャンセル料の支払自体は免れられないとしても、消費者契約法第9条第1号により、ホテル側は、利用者からのキャンセルに伴い生ずるであろう「平均的な損害の額」を超えるキャンセル料を請求することはできません
 「平均的な損害の額」がいくらになるかは、キャンセルの時期や理由等を個別具体的に考慮して決まります。ホテル側が「新型コロナウイルスの影響で別の宿泊客を確保することが難しい」と主張することも想定されますが、新型コロナウイルスによる宿泊希望者の減少という特別の事情は、平均的損害の額を考慮する際の事情には当たらないと考えられています。具体的な金額を考えるにあたっては、宿泊予定のホテルの近隣にある同種のホテルのキャンセル料の相場も参考になります。
 なお、オリンピック・パラリンピックの観戦目的での宿泊については、宿泊料金が通常の時期より割高に設定されていることがありますが、オリンピック・パラリンピックの開催期間という極めて特別な事情に基づいているため、「平均的な」損害の金額の算定では、通常の宿泊料金を基準として考えることになります。



 以上のように、新型コロナウイルスの影響により宿泊予約をキャンセルしようとする場合には、ホテル側に対し、キャンセルすること緊急事態宣言の発令というやむを得ない事情によるキャンセルであることをきちんと主張しつつ、支払うこと自体は避けられない場合であっても、具体的なキャンセル料の金額について協議をしていくことが望ましいと考えられます。ホテル側の対応に疑問がある場合には、消費者相談センターや弁護士にご相談ください。