自己破産における「免責」とは、破産手続による配当によっても弁済されなかった破産者の残余の債務について、その責任から免れさせることを意味します。自己破産においては、債務者が破産手続開始の申立てをした場合には、反対の意思表示をしない限り、免責許可の申立てをしたものとみなされることとなっており(破産法248条4項)、多くの場合、自己破産はこの免責許可を目的として申し立てられているという実情があります。
今回は、自己破産において重要な役割を果たす免責制度についてQ&A形式で解説いたします。
Q1、そもそも、なぜ免責が認められているのでしょうか。
A1、
現行破産法は、第1条において、破産法の目的として「債務者について経済生活の更生の機会の確保を図ること」を掲げています。これは、個人の一度の経済的失敗によってその活動を永久に止めてしまうとすると、ひいては国民のリスクを冒す経済活動を萎縮させ、自由競争や社会の活性化を阻害することを考慮したものと理解されています。
上記のような破産法の目的に照らすと、破産者に対し、更生の機会を与えるために免責を認めていると考えることができます。
また、そのような考え方とは異なり、破産制度の主たる目的を債権者の権利実現に求める立場からは、破産債権者の利益実現に誠実に協力した破産者に対する特典として、免責制度が認められているとの説明がなされています。
Q2、免責許可はどのような場合に認められるのでしょうか。
A2、
破産法252条1項により、次の①~⑪の免責不許可事由に該当しない場合には、免責許可が認められます。
①債権者を害する目的で行う破産財団の価値の不当な減少行為(1号)
債権者を害する目的で、債務者の財産を隠匿、損壊する行為(265条1号)、債務者の財産の譲渡又は債務の負担を仮装する行為(同条2号)、債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為(同条3号)、債務者の財産を債権者の不利益に処分し、又は債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為(同条4号)などが認められる場合には、免責不許可事由とされています。
②破産手続開始を遅延させる目的で行う不利益処分等(1号)
破産手続開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担したり、信用取引により商品を買い入れた上でこれを著しく不利益な条件で処分する行為などが免責不許可事由とされています。
③非義務行為についての偏頗(へんぱ)弁済等(3号)
特定の債権者に対し、偏頗的(※偏って不公平なこと)に担保提供や債務消滅行為を行い、一般債権者の利益を害している場合は、免責不許可事由とされています。
④浪費又は賭博その他の射幸行為による著しい財産減少等(4号)
浪費とは、必要かつ通常の程度を超えた、債務者の全財産状態に対して不相応な支出をすることであり、賭博とは賭事、博戯(※賭けを伴う勝負事のこと)の全てを含み、射幸行為とは、投機を目的とする証券取引、商品取引等を意味します。
実務上問題になることの多い免責不許可事由であり、高額の飲食、買い物、遊興、ギャンブル、パチンコ、アプリやゲームへの課金、投資・投機、ネットワークビジネスなどが広く対象に含まれます。
⑤詐術による財産取得(5号)
破産手続開始の申立てがあった日の前1年以内に、詐術を用いて信用取引により財産を取得した場合には、免責不許可事由に該当します。
⑥帳簿等の隠滅、偽造等(6号)
業務及び財産の状況に関する物件の隠滅等の行為を対象とするもので、それらの行為は、破産法上処罰の対象にもなっています(270条)。
⑦虚偽の債権者名簿の提出(7号)
破産者は、免責許可の申立てをする場合には、債権者名簿を提出する必要がありますが(248条3項本文)、破産者が虚偽の債権者名簿を提出した場合には免責不許可事由とされています。
⑧裁判所の調査における虚偽説明等(8号)
破産手続における裁判所の調査に対する説明拒絶等の行為を対象としています。
⑨不正な手段による破産管財人等の職務の妨害(9号)
不正の手段による破産管財人等の職務を妨害する行為を対象とするものであり、272条の破産管財人等に対する職務妨害の罪として処罰対象にもなっています。
⑩過去に受けた免責(10号)
7年以内に免責許可決定や民事再生法における免責(給与所得者等再生による免責、ハードシップ免責)の再生計画認可決定の確定があった場合には、免責不許可事由とされています。
⑪破産法上の義務違反(11号)
破産手続中の説明義務(40条1項1号)又は重要財産開示義務(41条)への違反や、免責手続における調査協力義務(250条2項)への違反があった場合は免責不許可事由とされています。
Q3、免責不許可事由がある場合には免責は認められないのでしょうか。
A3、
免責不許可事由がある場合でも、免責不許可事由に該当する事実が軽微なものであって、破産者の不誠実性を表しているとみるのが相当ではないと認められる場合などにおいては、諸事情を考慮して裁判所が免責を許可することができるものとされています(裁量免責、252条2項)。
実際の破産手続においては、破産者がA2に列挙した免責不許可事由に該当することも少なくないですが、その程度がよほど重大でない限りは、裁量免責の柔軟な運用によって、救済的な免責が認められています。
Q4、免責許可が認められるとどのような債権も支払わなくてよいのでしょうか。
A4、
いいえ、破産法で免責の効力が及ばないものと規定されている債権については、非免責債権として、免責許可が出た場合でも支払う必要があります(253条1項)。
具体的には、①租税等の請求権(1号)、②破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(2号)、③破産者が故意又は重過失により加えた生命・身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(3号)、④破産者が負担する扶養義務等に係る請求権(4号)、⑤雇用関係に基づく使用人の請求権等(5号)、⑥破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(6号)、⑦罰金等の請求権(7号)が、法律上特に保護の必要性が高いものとして、非免責債権と定められています。
自己破産において免責不許可事由への該当性や裁量免責の可否を判断するのは必ずしも容易なことではなく、専門的な知識に基づく検討が不可欠です。
自己破産を考えている方はお気軽に弁護士までご相談ください。