皆様の住んでいる建物の敷地は、公道に接続しているでしょうか。どのような利用目的で土地を取得した場合であっても、その土地から公道までを通行することができなければ、土地を活用することは困難です。今回は、そのような通行を認める民法上の制度として、隣地通行権と通行地役権について、Q&A方式でご紹介します。
Q1、最近、親から甲土地を相続したのですが、隣にある乙土地(A所有)か丙土地(B所有)を通らないと甲土地から公道に出ることはできない構造になっています。乙土地を通る場合には3mほど乙土地の端を通行すればよいですが、丙土地を通る場合には、20mほどを土地の真ん中を通行する必要があります。この場合、私は隣地を通行して公道に出てもよいのでしょうか。
A1、
隣地通行権に基づき乙土地を通行することができます。
民法210条1項は、「他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。」と規定しています(隣地通行権)。
隣地通行権により通行する場所・方法は、「通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない」(民法211条1項)ため、ご相談のケースでは、公道までの距離が短く、通行対象となる土地の所有者に負担の少ない乙土地に関する隣地通行権が認められる可能性が高いと思われます。
Q2、私としては、普段使う駅に出るために乙土地よりも丙土地を通りたいと思うのですが、丙土地を通ることはできないのでしょうか。
A2、
丙土地の所有者であるBとの間で丙土地の通行を内容とする地役権設定契約を結ぶことができれば、丙土地に関する通行地役権(民法280条)を取得し、これにしたがって、丙土地を通行することができます。
Q3、隣地通行権に基づき乙土地を通行する場合と通行地役権に基づき丙土地を通行する場合で、それぞれ通行料等を支払う必要があるのでしょうか。
A3、
隣地使用権については、原則的に、利用する土地の所有者に対して「償金」(有償の通行料)を支払う必要があると定められています(民法212条本文)。例外的に、土地分割や一部譲渡によって袋地が生じた場合は無償です。
これに対して、通行地役権は当事者間の地役権設定契約に基づいて内容が定まるため、通行料の支払いは必須ではありません。
Q4、隣地である乙土地の所有者A、丙土地の所有者Bはそれぞれ土地を売却して手放すつもりだという噂があります。この場合でも隣地通行権や通行地役権に影響はないのでしょうか。
A4、
隣地通行権は他人の土地に囲まれた袋地の所有者に法律上当然に認められる権利であるため、隣地の所有者が変わったとしても、当然に主張することができます(最高裁判所昭和47年4月14日判決参照)。
これに対し、通行地役権は当事者間の契約で設定された物権であるため、当然に新所有者にその内容を対抗(主張)することはできません。契約によって設定した地役権の内容について他の者にも効力を主張するには、地役権の設定登記を行う必要があります。
Q5、その他にも隣地通行権と通行地役権の違いはありますか。
A5、
隣地通行権は周囲を囲んでいる他の土地(囲繞地)にとって損害の少ない範囲で認められますが、通行地役権は当事者間の契約で自由に定められるため、通行の方法や範囲も基本的には自由に設定することができます。
また、通行地役権は権利を行使できる時から20年間行使しない場合には時効により消滅します(民法291条、166条2項)。これに対し、隣地通行権は時効によって消滅しません。