懲戒処分のうち減給処分について

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Q1.会社の就業規則で懲戒処分が定められている場合がありますが、懲戒処分の意義と根拠について教えてください。
A1.
 懲戒処分とは、企業秩序に違反した従業員の行為に対する制裁罰で、労働契約関係における不利益な取り扱いを使用者が一方的に行うことを言います。
 裁判例では、懲戒権について、使用者が本来的に有する企業秩序定立権の一環ではあるが、就業規則に明記して初めて行使できるとされています。


Q2.懲戒処分の種類と程度はどうでしょうか。
A2.
 それぞれの会社の就業規則によりますが、一般的には、譴責・減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇が定められることが多いようです。
 注意を要するのは、懲戒事由として定め、形式的にはこれに該当する行為があったとしても、必ずしも懲戒権の行使が有効になるとは限らないことです。すなわち、懲戒権の行使の有効性は以下の4つの要件を満たすかどうかにより判断されます。
① 懲戒事由と懲戒処分の種類が明記されていること(就業規則の有無・誓約書の有無・規程の合理性)
② 懲戒事由に該当する企業秩序違反行為の存在
③ 懲戒処分の社会的相当性
④ 懲戒処分の適正手続


Q3.A社員は、B会社の顧客情報を親類の者に開示して親類が経営する事業所からのDM送付に利用させていました。B会社としては就業規則に照らしA社員に顛末書と反省文を書かせ、その上で減給処分にすることとしました。具体的には計30万円を毎月の給与から3万円ずつ10ヵ月にわたり減給したいと考えていますが、問題はありますか。
A3.
 顧客情報の漏洩は重大な企業秩序違反です。もっとも、労働基準法91条は「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。」と規定しています。
 この法の規定からすると、1つの非違行為(一事案)に対し、「平均賃金の1日分の半額まで」しか減給できないこととなります。また、二重処罰が禁止されていることから、一事案に対し平均賃金の半額を繰り返し減給することはできません。


Q4.そうすると、B会社のA社員に対する毎月3万円の減給は許されなくなりますか。
A4.
 減給は、「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず」、かつ、「総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」とされています。
 例えば、A氏の月給が30万円の場合の1日の平均賃金は10,000円になりますので(簡略化して計算しています)、1回の減給処分で5,000円しか差し引くことはできません。お尋ねの「処分内容は減給処分で計30万円を毎月の給与から3万円ずつ10ヵ月にわたり減給します。」というのは、労働基準法に違反する処分となりますので、是正してください。


Q5.本件は該当しないのですが、仮に、非違行為が2つ以上(複数事案)ある場合ではどうですか。
A5.
 例えば非違行為が10個ある場合、1回の額の上限5,000円×10個=50,000円を減給できそうですが、「総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」ことから30万円×1/10=3万円しか減額することはできず、10分の1を超えて減額する必要がある場合は、超過分を次期以降の賃金から順次減額するものとなります。以上の金額や期間を超えての減給処分は裁判に発展するケースもあるので、注意してください。


Q6.よく会社に不祥事があった場合、役員報酬の3割を6か月間減給するという報道がありますが、この点はどうですか。
A6.
 会社役員や公務員は労働基準法の適用がないので、「減給処分で計30万円を毎月の給与から3万円ずつ10か月にわたり減給」というのも違法とはなりません。
 なお、今後の参考として、
ア 出勤停止は、就業規則に出勤停止とその期間中の賃金は支払わないという定めがある場合、労働基準法91条の適用は受けません。
イ 降格処分による賃金の低下も法91条の適用を受けません。
ウ なお、賞与による査定減は、企業に賞与査定の裁量がある場合は許されます。