発信者情報の開示請求について

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(SNS上の誹謗中傷の削除要請等について)


社 長:私は食品加工業を営んでおりますが、SNSに会社の嘘の悪口を書かれてしまいました。
弁護士:
 それは、投稿を見た人が、書かれている内容を信じてしまわないか不安ですね。


社 長:そうなのです。
弁護士:どのような投稿がされたのですか。


社 長:「ひどい企業」というものと、「工場では食品を素手で扱っている」というものです。
 投稿した人に損害賠償請求をしたいのですが、匿名で投稿がなされているので、誰が書き込みをしたかわかりません。何かよい方法はないでしょうか。
弁護士:
 名誉毀損等に該当することが明らかな投稿がなされた場合、発信者情報開示請求を行うことで、投稿した人を特定できる可能性があります。投稿者を特定した上で、投稿の削除要請や損害賠償請求を行うことが考えられます。


社 長:発信者情報開示請求とはどのような制度ですか。
弁護士:
 プロバイダに対して、発信者の特定に資する情報(発信者情報)を開示するよう請求する制度です。従来、コンテンツプロバイダ(Google、X(旧Twitter)など)に対するIPアドレス(※1)の開示仮処分とアクセスプロバイダ(docomo、Softbankなど)に対する氏名・住所等の開示訴訟という2段階の手続を行う必要がありましたが、令和4年のプロバイダ責任制限法の改正によって、1つの手続で行うことが可能となりました。
※1 IPアドレス:
インターネットに接続可能な機器に割り当てられる識別番号で、住所のようなもの。


社 長:どのような投稿に発信者情報の開示が認められますか。
弁護士:
発信者情報の開示が認められるためには、
①「特定電気通信」による情報の流通がなされた場合であること(5条1項柱書)、
②当該情報の流通によって自己の権利が侵害されたことが明白であること(5条1項1号)、
③発信者情報の開示を受ける正当な理由が存在すること(5条1項2号)、
④発信者情報の開示を求める相手が「開示関係役務提供者」であること(5条1項柱書)、
⑤開示を求める情報が「発信者情報」に該当すること(5条1項柱書)、
⑥上記発信者情報を開示関係役務提供者が「保有」していること(5条1項柱書)、
という要件が必要です。


社 長:なんだか、難しい用語が多くて分かりづらいですね。
弁護士:
 そうですね。特に、上記要件のうち、②の権利侵害の明白性が問題となります。
 権利侵害の明白性が認められるためには、名誉毀損の3要件((ⅰ)公然性、(ⅱ)事実の摘示、(ⅲ)人の名誉を毀損したこと)のほかに、④違法性阻却事由の不存在(適示された事実が重要部分において真実に反することが明らかであること)の疎明が必要です。特に問題となりやすいのは、(ⅱ)事実の適示の要件です。


社 長:今回問題となっている投稿は、「ひどい企業」というものと、「工場では食品を素手で扱っている」というものですが、これらの投稿は事実の適示に当たりますか。
弁護士:
 「ひどい企業」という投稿は、感想や意見の論評すぎず、事実の適示に当たらない可能性が高いです。
 他方、「工場では食品を素手で扱っている」という投稿は、事実の適示に当たる可能性が高いです。ただし、請求を行う側で、④違法性阻却事由の不存在を疎明しなければなりません。今回では、「工場では食品を素手で扱っている」の部分について、資料を提出し、真実に反することが明らかであることの疎明が必要です。


社 長:わが社では徹底した作業管理を行っているため、素手で食品を扱うことはあり得ません!普段から、食品の製造過程や管理体制に関する記録を残しておいて良かったです。さっそく会社に戻って資料を収集します。