近年、若年層に対する性犯罪・性暴力が増加傾向にあり、特に10代・20代が被害者となるケースが目立っています。これには、SNSやインターネットの普及に伴い、若者が他人と気軽にコミュニケーションできるようになった反面、あまりに容易に見知らぬ人と接触ができるようになったという背景もありそうです。
いわゆる「頂き女子りりちゃん」の事件(※)は、SNS等を使用した犯罪で、大々的に報道はされたものの、根本的にこれらの行為が男性側や女性側にとってどのような犯罪となるのか、という本質についてはあまり焦点が当たっていない印象でした。
※「頂き女子りりちゃん」こと被告人Mは、男性3人に恋愛感情を抱かせたうえで、金に困っているなどとうそを言って、約1億5500万円をだまし取る詐欺罪及び男性をだます「恋愛マニュアル」を販売して利用者の詐欺を手助けした詐欺幇助罪などに問われました。Mは、結局、懲役8年6か月、罰金800万円との実刑判決が確定しました。「頂き女子りりちゃん」は、「パパ活女子のカリスマ」と呼ばれ、当該事件の被害者もパパ活相手であったといわれています。
そこで、男女を問わず、未成年者に関わる以下の犯罪類型は違法性が強く、法律等によって厳しく規制されていますので、これを整理しました。
(1)児童買春禁止法違反
性的搾取及び性的虐待が、18歳未満の児童の権利を著しく侵害することの重大性に鑑み、児童の権利を守ることを目的としています(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律第1条、以下「児童買春・児童ポルノ禁止法」と言います)。
18歳未満の児童との性交、性交類似行為、性器を触る触らせるといった行為があった場合には、児童買春・児童ポルノ禁止法違反となります(児童買春、児童ポルノ禁止法第2条)。児童買春をした場合、「5年以下の懲役または300万円以下の罰金」が科されます(同法第4条)。
(2)未成年者略取・誘拐罪
未成年者誘拐とは、未成年者(18歳未満の者)に対して欺罔、誘惑などの手段を用いて、相手方を従前の生活環境から離脱させ、自己または第三者の支配下に置くことをいいます。例えば、18歳未満の女性に対し、高級レストランに連れて行ってあげる、ブランドバックを買ってあげる、お小遣いをあげるなどといって連れまわすだけでも、未成年者略取誘拐罪が成立しうる可能性があります。罰則は、「3か月以上7年以下の懲役」です(刑法第224条)。
未成年者略取・誘拐罪は、未成年者の自由だけではなく、親や保護者が持つ監護権も保護対象になるので、未成年者本人が連れ去りなどに同意していても、同罪が成立する可能性があります。
(3)児童福祉法違反
児童福祉法は、18歳未満の児童の心身の健全な成長と発達並びに自立、その他の福祉を保障することを目的とする法律です。児童福祉法34条1項6号では、「児童に淫行をさせる行為」が禁止されています。「淫行」とは、「児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為」をいいます(最高裁平成28年6月21日決定)。また、「淫行させる行為」とは、「直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し、促進する行為」をいいます(最高裁昭和40年4月30日決定)。児童と一定の関係にある場合に、適用されます。例えば、教師と生徒というような間柄で、淫行すれば、児童福祉法違反に問われるでしょう。
児童福祉法違反の法定刑は「10年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金または併科」です(同法第60条第1項)。
(4)不同意わいせつ罪・不同意性交等罪
16歳未満の者に対してわいせつな行為をした場合や体の関係を持った場合は、不同意わいせつ罪もしくは不同意性交等罪が適用されます。この場合、被害者の同意の有無は問われません。同意があったとしても無条件で同罪が成立します。不同意性交等罪の法定刑は「5年以上の有期拘禁刑」です(刑法第176条1項・3項、177条1項・3項)。
なお、相手方が16歳以上であった場合でも、無理やり性交等を行った場合は、不同意わいせつ罪もしくは不同意性交等罪が適用される可能性があります。
(5)淫行条例違反
各都道府県には青少年(18歳未満の児童)の保護育成を目的とした淫行条例(青少年保護育成条例)があり、未成年と性行為等を行った場合、条例違反という犯罪になる可能性があります。愛知県の場合は、青少年(18歳未満の者)に対して「いん行」または「わいせつ行為」をしてはならない(愛知県青少年保護育成条例第14条1項)という定めです。罰則として、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます(同条例第29条1項)。
(6)売春防止法違反(売春防止法第5条)
最近、未成年者が街中で客引きをして売春を行う行為が報道されています。これらは、売春防止法違反の勧誘罪にあたります。
売春防止法違反における勧誘罪の刑罰は、6か月以下の懲役または1万円以下の罰金です。
以上