就業規則の周知義務について

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第1 就業規則とその機能
 本来、労働者の労働条件は、使用者と各労働者との個別の合意によって決定・変更されることが原則です。しかし、使用者がすべての労働者と、個別の合意を結び、それを逐一変更することは現実的ではありません。そこで、使用者は、就業規則に労働条件を定めることで、各労働者との関係でその内容を有効なものとすることができます(就業規則の内容が合理的である場合に限ることは当然です)。これにより、使用者は、就業規則を利用して、統一的かつ画一的な労働条件の決定ができることとなります。
 他方、就業規則は労働者を保護する機能も有しています。労働契約法第12条は、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」と規定しています。これにより、労働者は、使用者によって就業規則で定められた条件より悪い内容で業務を強いられることから守られています
 このように就業規則は、使用者が労働条件を効率的に整備する役割と、労働者を不意打ち的な労働条件を強いられることから守る役割を果たしています。


第2 就業規則の周知義務
 就業規則の上記の役割のうち、労働者保護の役割を果たすためには、使用者が、労働者に対して、事前にその内容を知る機会を与えていることが必要です。
 そこで、労働基準法第106条第1項及び労働基準法施行規則第52条の2において、使用者は、就業規則を以下の⑴~⑶の方法により、労働者に周知することを義務付けられています
⑴ 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること
⑵ 書面を労働者へ交付すること
⑶ 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずるものに記録し、かつ各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること
(周知義務の具体的な方法は⑴~⑶のいずれか1つの方法によれば良いとされています。したがって、例えば使用者が、就業規則を電子データとして確認できる状態に置いた場合、労働者から紙面として提供するよう要求があったとしても、それに応じるまでの法的な義務はありません。)


 そして、使用者は、就業規則の周知義務を怠った場合、30万円以下の罰金に処せられます(労働基準法第120条第1号)。
 加えて、これらの周知義務を適切に履行しなかった場合には、就業規則の各規定の効力の発生が認められない場合がありますので、使用者は、適切に周知義務を履行しなければなりません。


第3 まとめ
 就業規則は、画一的な労働条件の管理及び快適な労働環境の確保のため、使用者と労働者の双方にとって重要な存在です。
 よって、使用者は、法律上の就業規則の周知義務を履行したうえで、さらに労働者の理解を得るために、就業規則の内容について適宜説明を行うことが大切でしょう。これに対し、労働者も、日頃から就業規則の周知が適切になされているかを監視し、その内容を定期的に確認する姿勢が、自らの就労環境を守るために必要と言えます。