SOGIハラスメントについて

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Q1 SOGIハラスメントとは
A1 
 「SOGI」とは、「性的指向(Sexual Orientation)」と「性自認(Gender Identity)」の頭文字を取った略称で、「ソジ」、「ソギ」などと呼ばれます。
 「性的指向」は、人の恋愛・性愛がどのような対象に向かうのかを示す概念で、異性愛者、同性愛者、そのいずれにも当てはまらない者など様々です。
 「性自認」は、自己の性をどのように認識しているかを示す概念で、生物学的性別と性自認が同一の者、生物学的性別と性自認が異なる者、性自認がはっきりと自覚できない者など様々です。
 「SOGIハラスメント」とは、性的指向や性自認に関連して行われるハラスメントをいい、相手方の性的指向、性自認に関して差別的な言動を行ったり、性的指向、性自認に着目して解雇等の不利益な取り扱いをしたりすること、アウティングなどがこれにあたります。

Q2 SOGIハラが問題になった事例はどのようなものですか。
A2 

【性同一性障害者事件・東京地裁平成14年6月20日決定(労判830号13頁)】
 労働者(生物学的には男性、性自認は女性)は、性同一性障害の診断を受け、女性名への改名を認められ、ホルモン注射により、精神的、肉体的に女性化が進み、男性の容姿をして就労することが精神的、肉体的に困難となっていたところ、会社が女性の服装、容姿で出勤しないよう命じた業務命令に従わなかったことを理由に懲戒解雇を行ったという事案です。
 裁判所は、
・会社が、労働者の行動による社内外への影響を憂慮し、当面の混乱を避けるために、労働者に対して女性の容姿をして就労しないよう求めること自体は、一応理由があるといえる、としながらも、
・労働者が、性同一性障害との診断を受け、精神療法等の治療を受けていること、妻との調停離婚が成立したこと、医師の診断書において、女性としての性自認が確立しており、今後変化することもないと思われること、職場以外において女性装による生活状態に入っている旨記載されていること、労働者が、家庭裁判所の許可を受けて、戸籍上の名を通常、男性名から、女性名とも読める名に変更したこと、性同一性障害が医学的にも承認されつつある概念であること、労働者は、性同一性障害として精神科で医師の診療を受け、ホルモン療法を受けたことから、精神的、肉体的に女性化が進み、男性の容姿をして就労することが精神、肉体の両面において次第に困難になっていたことなどを認定し、会社において、労働者の業務内容、就労環境等について、本件申出に基づき、会社、労働者双方の事情を踏まえた適切な配慮をした場合においても、なお、女性の容姿をした労働者を就労させることが、会社における企業秩序又は業務遂行において、著しい支障を来すと認めるに足りる疎明はないとして、懲戒解雇の相当性を認めませんでした

 
Q3 
アウティングとは何ですか。
A3 
アウティング」とは、本人の了解を得ずに、性的指向や性自認に関する情報を第三者に暴露することといいます。
アウティングの被害に遭った者は、深く傷つくとともに、社会から好奇の目で見られたり、いじめに遭たりする可能性がありますので、企業としては対策を検討しておくことが必要です。


Q4 アウティングが問題になった事例はどのようなものですか。
A4 
【一橋大学法科大学院事件・東京高裁令和2年11月25日判決】


 一橋大学法科大学院に在席していた大学院生(生物学的には男性、同性愛者、以下、「本件大学院生」と言います。)が同級生に対しメッセージアプリにて好意を寄せていることを告白したところ、後日、当該同級生が、本件大学院生のほか同級生9名が登録されたメッセージアプリのグループで、「おれもうおまえがゲイであることを隠しておくのムリだ。ごめん。」というメッセージを投稿したため、ゲイの男性が心身に変調をきたし校舎から転落死したとされる事件です。
 裁判所は、「本件アウティングは、亡くなった大学院生がそれまで秘してきた同性愛者であることをその意に反して同級生に暴露するものであるから、当該大学院生の人格権ないしプライバシー権等を著しく侵害するものであって許されない行為であることは明らかである」と判示しました。

※控訴人ら(本件大学院生の遺族)は、当該同級生と被控訴人(国立大学法人)を共同被告として損害賠償を請求していた事案ですが、当該同級生との間の訴訟は,原審において訴訟上の和解が成立したことにより終了していました。
 また、本件では、控訴審も被控訴人(国立大学法人)の賠償責任(控訴人らが主張していた責任の根拠は就学契約に基づく信義則上の付随義務である安全配慮義務及び環境配慮義務脳の違反)は否定しています。


Q5 上記のような行為が企業・団体内で発覚した場合、どのような法的リスクがありますか。
A5
 該当行為が、民法上違法と評価される場合には、不法行為責任を負うリスクがあります。また、該当行為により、うつ病を発症したケースなどでは労災認定がなされる場合もあり、企業としての責任追及がなされる可能性があるほか、企業イメージのダウンなどのリスクも考えられます。企業内研修でSOGIハラ対策を周知するなど、企業ごとに対策を検討する必要があるでしょう。