1、最近、「忘れられる権利」ということばを、ニュースなどで耳にした方も多いのではないでしょうか。 「忘れられる権利」の定義については必ずしも明確ではありませんが、一般的には、インターネット上にある個人情報を削除してもらうように求める権利だといわれています。 現代社会においては、インターネットサービスの普及に伴い、情報発信が極めて容易になっている反面、ひとたびインターネットに流れた情報を完全に削除することはほぼ不可能であることから、個人情報をめぐる問題が頻発しています。 そうした中、個人情報を保護するための新しい権利として「忘れられる権利」が提唱されるようになりました。 2、日本の裁判例では、平成27年12月22日、さいたま地方裁判所が国内で初めて「忘れられる権利」に言及しました。 過去に児童買春・ポルノ禁止法違反での逮捕歴のある男性が、インターネット検索サイト「Google」の検索結果から、自身の逮捕歴に関する記事の削除を求めた仮処分をめぐり、さいたま地方裁判所は、「忘れられる権利」を認めたうえで削除を認める決定を出したのです。 これに対して、Googleが決定を不服として抗告し、平成28年7月12日、東京高等裁判所は、削除を認めたさいたま地方裁判所の決定を取り消し、男性の申立てを却下するという判断を下しました。 3、東京高等裁判所は、「忘れられる権利」については、そもそも法律上の根拠がなく、その要件や効果も明確でないし、その実体は名誉権やプライバシー権に基づく請求と異ならないことから、「忘れられる権利」に基づく請求を独立して判断する必要はない、と述べました。 要するに、「忘れられる権利」という独立した権利に基づき削除を求めることはできないものの、従来どおり、名誉権ないしプライバシー権といった権利に基づいて、検索結果の削除を求めることはできると判断したのです。 そのうえで、本件では、男性の逮捕歴は社会的に関心の高い行為であり、事件から5年程度が経過しただけでは公共性は失われておらず、検索結果の削除は多くの人の表現の自由や知る権利を侵害するとして、男性の削除請求を否定しました。 4、どのような情報なら、いかなる場合に検索結果の削除請求が認められるのか、その一般的な判断基準についてはいまだ形成途上にあり、明確な基準が定まっているわけではありません。また、今後、「忘れられる権利」についての検討が積み重ねられることにより、名誉権やプライバシー権とは独立した権利として認められる必要性も生じるかもしれません。 今後の議論の蓄積が待たれるところです。 |