Q1、最近、相続人がいない独居老人が増えていますが、相続人がおらず、包括受遺者(※)もいない場合、その人の遺産はどうなるのですか。 ※包括受遺者:「遺産の全部(あるいは○○分の1)を甲に与える」というように、遺産の全部またはその分数的割合を指定して遺贈を受けた人のこと。 A1、 利害関係人の請求により、家庭裁判所において「相続財産管理人」が選任されます。相続財産管理人は、相続債権者・受遺者に対する請求申出の公告・催告と弁済、相続人捜索の公告をします。そして相続人のいないことが確定した後、「特別縁故者」から相続財産分与の申立てがなければ、遺産は国庫に帰属します。 Q2、「特別縁故者」とは、どのような関係の人ですか。 A2、 亡くなった方と生計を同じくしていた者(例えば、内縁の妻、事実上の養子など)、亡くなった方の療養看護に努めた者(老齢・病弱の被相続人のために日常生活の世話をし、看護や葬儀の世話をした方など)、その他被相続人と特別の縁故があった者をいうとされています。 Q3、特別縁故者に相続財産を分与する法の趣旨はどこにありますか。 A3、 遺言の活用が一般的とはなっていないわが国の現状では、被相続人の意思に適う制度であり、また、実質的には相続人と同一の立場にありながら法律上相続権のない者に最小限の保護を与えるものです。司法統計によると平成23年以降、毎年1000件以上の申立てがあります。 Q4、特別縁故者からの相続財産分与の申立てはいつまでに、どこにすればよいのですか。 A4、 相続人捜索のための公告で定められた期間満了後3か月以内の申立てが必要です。また、申立ては亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。 Q5、認められた具体例を教えてください。 A5、 大阪高裁平成28年3月2日決定は、①被相続人の身の回りの世話を10年以上継続してきた近隣在住の知人と、②被相続人が財産を遺贈しようとしていたが果たせなかった成年後見人で4親等の親族について、原審の大阪家裁は申立てを却下したのですが、遺産1億2572万円のうち、それぞれ500万円の財産分与を認めました。 また、名古屋高裁金沢支部平成28年11月28日決定は、被相続人が35年に渡って入所していた施設を運営する社会福祉法人について、原審は療養看護は契約に基づくもので特別なものではなかったとして却下したのに対し、通常期待されるサービスを超えて療養看護がなされたとして、相続財産全部の分与を認めました。 他方、東京高裁平成27年2月27日決定は、原審のさいたま家裁が被相続人のいとこ5名に対し合計9500万円の財産分与を認めていたところ、申立人らが親族としての情誼に基づく交流を超えるような特別な付き合いをしたことまで認めるに足る資料はないとして原審判を取り消し、事件をさいたま家裁に差し戻しました。 Q6、それらの裁判は、一体どのような根拠に基づいた判断なのですか。 A6、 抽象的に言えば、相続財産の全部もしくは一部を分与することが被相続人の意思に合致するとみられる程度に被相続人と密接な関係があったと評価されるか否かとなります。 要は、被相続人の意思を尊重しつつ、被相続人と縁故者の血縁関係の有無、生前における交際の程度、被相続人が精神的・物質的に恩恵を受けた程度、死後における実質的な供養の程度、その他諸般の事情を斟酌して、個別具体的に判断されているのです。 |