民法改正(1) 時効

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平成29年5月に成立した「民法の一部を改正する法律」は令和2年4月1日から施行されています。今回の改正は、民法の中でも契約等に関する基本的ルールを定めた債権法と言われる部分が対象となっていますが、この部分は明治29年の民法制定後、実に約120年ぶりの改正です。基本的ルールを120年分の社会経済や暮らしの変化に対応させるのですから、改正項目は小さなものまで含めると200程度あると言われています。

民法改正について今後連載を開始しますが、今回は改正法の中でも大きく変わった「時効制度」を取り上げます。

 

民法改正(1)時効


1、職業別短期消滅時効及び商事消滅時効の廃止

 旧法では、職業別に短期消滅時効を規定していました(例えば工事代金は3年、小売り商品代金は2年、運賃や飲食代金は1年等。旧法170~174条)。

 しかし、これらの短期時効に合理的な区別があるのかとの疑問とともに、現代社会における取引の複雑化・多様化及び職業の多様化により、具体的な事案において適用される債権か否かの判断が困難な場合が増えてきました。

 また、商事債権については、貸付債権でも銀行の貸金は商事債権、信用金庫の貸金は民事債権とされ、差異が生じる等の不都合が指摘されていました。

 そこで新民法では職業別短期消滅時効を廃止するとともに、商事消滅時効(5年)の制度も廃止しました。

 
2、消滅時効の期間と起算点の見直し

 それでは具体的に時効期間は何年になったのでしょうか。旧法では一般債権は10年、不法行為は3年(知った時から)又は20年(不法行為時から)とされていました。

1)一般債権の時効

新民法は、一般債権の時効を、

①権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年
  ②権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年としました(第166条)

   ※「権利を行使することができることを知った時」とは、「権利行使が期待可能な程度に権利の発生及びその履行期の到来その他権利行使にとっての障害がなくなったことを債権者が知った時」のことをいいます

2)人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効

   人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効については、

①権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年
  ②権利を行使することができる時(客観的起算点)から20年としました(第167条)

(3)不法行為債権の時効(例えば交通事故の損害賠償請求権)

損害及び加害者を知った時から3年(※)

不法行為の時から20年(第724条)とすることは従前どおりです。

人の生命又は身体を侵害する不法行為の場合には上記(2)と同様に5年

 

3、改正法が適用される債権

   改正法は令和2年4月1日から施行されていますが、「施行日前に債権が生じた場合」または「施行日前に債権発生の原因である法律行為がされた場合」には、その債権の消滅時効期間については、原則として、改正前の民法が適用されます。

上記のいずれにも該当しない場合には、改正後の民法が適用されます。