最高裁判所令和4年4月19日判決

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~節税目的で不動産を購入した事案で申告額を大幅に上回る評価額での課税処分を適法とした事案~


1、事案の概要
①平成21年1月30日、被相続人Aは6億3000万円を借り入れて、甲不動産を8億3700万円で購入。
②平成21年12月21日、Aは4700万円を、同月25日に3憶7800万円をそれぞれ借り入れて、同日乙不動産を5億5000万円で購入。
③平成24年6月17日、Aは94歳で死去し、X1、X2、X3(以下、「Xら」という)がその財産を相続により取得。
④A及びXらは、上記各不動産の購入及びその購入資金の借入れを、A及びその経営していた会社の事業承継の過程の一つと位置付けつつも、近い将来発生することが予想されるAからの相続においてXらの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて企画して実行したものである。また、上記購入・借入れがなかったとすれば、本件相続に係る相続税の課税価格の合計額は6億円を超えるものであった。
⑤Xらは、評価通達の定める方法により、甲不動産の価額を合計2億0004万1474円、乙不動産の価額を合計1億3366万4767円と評価した上(以下、これらの価額を併せて「本件各通達評価額」と いう。)、平成25年3月11日、札幌南税務署長に対し、本件各通達評価額を記載した相続税の申告書を提出した。

上記申告書においては、課税価格の合計額は2826万1000円とされ、基礎控除の結果、相続税の総額は0円とされていた。

⑥札幌南税務署長は、国税庁長官の指示を受けて、平成28年4月27日付けで、Xらに対し、不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準により本件相続の開始時における本件各不動産の正常価格として算定した鑑定評価額に基づき、甲不動産の価額が合計7億5400万円、乙不動産の価額が合計5億1900万円(以下、これらの価額を併せて「本件各鑑定評価額」という。)であることを前提とする本件各更正処分(本件相続に係る課税価格の合計額を8億8874万9000円相続税の総額を2億4049万8600円とするもの)及び賦課決定処分をした。

 

 ※Xらの申告     課税価格の合計額   2826万1000円

            相続税の総額             0円

  税務署長の更正処分 課税価格の合計額 8億8874万9000円

            相続税の総額   2億4049万8600円


⑦Xらは、上記更正処分、賦課決定処分が違法であるとして取消を求めて訴訟を提起した。

なお、乙不動産は平成25年3月7日付けで、代金5億1500万円で第三者に売却されている。


2、原審(札幌高等裁判所)の判断
結論:請求棄却(各処分は適法)
理由:
①相続税法22条は、同法第3章で特別の定めのあるものを除くほか、相続等により取得した財産の価額は当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額はその時の現況による旨を規定する。
②評価通達(財産評価基本通達(昭和39年4月25日付け直資56、直審(資)17国税 庁長官通達)1は、時価とは課税時期(相続等により財産を取得した日等)においてそれぞれの財産の現況に応じ不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は評価通達の定めによって評価した価額による旨を定める。

他方、評価通達6は、評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は国税庁長官の指示を受けて評価する旨を定める。
③本件各不動産の価額については、評価通達の定める方法により評価すると実質的な租税負担の公平を著しく害し不当な結果を招来すると認められるから、他の合理的な方法によって評価することが許される。

 ↓

本件各鑑定評価額は本件各不動産の客観的な交換価値としての時価であると認められるからこれを基礎とする本件各更正処分は適法であり、これを前提とする本件各賦課決定処分も適法である。


3、最高裁の判断
結論:上告棄却(各処分は適法)
理由:
①租税法上の一般原則としての平等原則は、租税法の適用に関し、同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求するものと解される。そして、評価通達は相続財産の価額の評価の一般的な方法を定めたものであり、課税庁がこれに従って画一的に評価を行っていることは公知の事実であるから、課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、上記の平等原則に違反するものとして違法というべきである。

もっとも、上記に述べたところに照らせば、相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等 原則に違反するものではないと解するのが相当である。


②これを本件各不動産についてみると、本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間には大きなかい離があるということができるものの、このことをもって上記事情があるということはできない。

もっとも、本件購入・借入れが行われなければ本件相続に係る課税価格の合計額は6億円を超えるものであったにもかかわらず、これが行われたことにより、本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価すると、課税価格の合計額は2826万1000円にとどまり、基礎控除の結果、相続税の総額が0円になるというのであるから、Xらの相続税の負担は著しく軽減されることになるというべきである。

そして、A及びXらは、本件購入・借入れが近い将来発生することが予想されるAからの相続においてXらの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて本件購入・借入れを企画して実行したというのであるから、租税負担の軽減をも意図してこれを行ったものといえる

そうすると、本件各不動産の価額について評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは、本件購入・借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者とXらとの間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべきであるから、上記事情があるものということができる。

したがって、本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するということはできない。

4、コメント

本判決の実務上の影響は大きいと思われます。

相続税の節税をセールストークとして不動産の購入や建築を勧誘する業者は少なくなく、本件と同様に節税目的で多額の借り入れをしてまで不動産の購入や建築をするケースも少なくないと思われます。

この最高裁判所の判断を受けて、今後、税務当局が同様の案件に広く評価通達6項を適用して更正処分を行うことも想定されるため、少なくとも、今後、相続税対策のための不動産取得を検討する際には、本判決を十分に踏まえる必要があるといえます。

以上