賃貸住宅管理業法の完全施行
~賃貸住宅管理業者に対する規制~
1、賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の成立
賃貸住宅管理業法(「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(以下、法とする))は、賃貸住宅管理に関し、現に発生しているトラブルを防止するとともに、近年の賃貸住宅管理を巡る環境の大きな変化を踏まえ、将来にわたりあるべき賃貸住宅管理市場を視野に入れて、健全な市場の発展を目指そうとするものです。
具体的には、賃貸住宅における良好な居住環境の確保及び不良業者を排除し、業界の健全な発展・育成を図るため賃貸住宅管理業者の登録制度を設けるとともに、事務所ごとに必置となる業務管理者の選任、オーナーに対する契約締結前の重要事項説明等を義務づけ、また、特定賃貸借契約の適正化のための措置等を規定しています。
この内、令和2年(2020年)12月15日に施行された特定賃貸借契約におけるサブリース業者の行為規制については、既にこのホームページでも概要を紹介したところです。
今回は、令和3年(2021年)6月15日に施行された賃貸住宅管理業者の(義務的な)登録制度と業務におけるに規制について説明します。
2、賃貸住宅管理業の登録
(1)登録の義務付け
委託を受けて賃貸住宅管理業務(賃貸住宅の維持保全、金銭の管理)を行う事業を営もうとする者について、国土交通大臣の登録を受けることが義務付けられました(法第3条)。
登録の効果は5年であるため、いったん登録しても5年が過ぎる前に更新する必要があります。期間満了日の90日前から30日前まで更新手続が可能です。
※管理戸数が200戸未満の者は任意登録
無登録営業には罰則があり「5年以上の懲役または100万円以下の罰金刑」を科される可能性があります。
(2)登録を拒否される場合
以下(例示)のような法人及び個人は、登録拒否要件に該当し、登録することができません(法第6条)。
①心身の故障により業務を的確に遂行することができない者
②破産手続き中の者
③過去に賃貸住宅管理業の登録を取り消されてから5年以内の者
④禁錮以上の刑に処せられて刑の執行猶予期間終了後あるいは刑の執行終了後5年以内の者
⑤暴力団員等である者
⑥業務に関し不正な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者
⑦財産的基礎を有しない場合
3、賃貸住宅管理業者に対する行為規制
今回の完全施行により、賃貸住宅管理業者に対して、以下のような行為規制が及ぶこととなりました。
①業務管理者の配置(法第12条)
営業所又は事務所ごとに、賃貸住宅管理の知識・経験を要するものを配置。
賃貸住宅管理業者の従業員が行う管理業務等の質を担保する必要があることから、法第12条において、賃貸住宅管理業者は、従業員が行う管理業務等の指導・監督を行うために必要な知識及び能力等の一定の要件を備える者(業務管理者)をその営業所又は事務所ごとに一人以上選任し、当該者に一定の事項についての管理及び監督を行わせなければならないこととしています。
②管理受託契約締結前の重要事項の説明(法第13条)
賃貸住宅管理業者は、管理受託契約を締結しようとするときは、管理業務を委託しようとする賃貸住宅のオーナー(専門的知識及び経験を有する者を除く。)に対し、当該管理受託契約を締結するまでに、管理受託契約の内容及びその履行に関する事項について、書面を交付して説明しなければなりません。
管理受託契約重要事項説明については、オーナーが契約内容を十分に理解した上で契約を締結できるよう、説明から契約締結までに1週間程度の期間をおくことが望ましいとしており、説明から契約締結までの期間を短くせざるを得ない場合には、事前に管理受託契約重要事項説明書等を送付し、その送付から一定期間後に、説明を実施するなどして、管理受託契約を委託しようとする者が契約締結の判断を行うまでに十分な時間をとることが推奨されています。
③管理受託契約時の書面の交付(法第14条)
賃貸住宅管理業者は、管理受託契約を締結したときは、管理受託契約の相手方に対し、確定した契約条件を当事者同士で確認できるよう、相手方に対し、遅滞なく、必要な事項を記載した事項を記載した書面を交付しなければなりません。
契約締結前とは別で、締結時に新たな書面の交付が必要です。契約締結に際して2度書面を交付する必要があることに注意が必要です。
④再委託の禁止(法第15条)
賃貸住宅管理業務の再委託が禁止されています。委託者から委託を受けた物件の管理は委託を受けた賃貸住宅管理業者しか行うことができません。
なお、管理受託契約に管理業務の一部の再委託に関する定めがあるときは、一部の再委託を行うことができますが、自らで再委託先の指導監督を行わず、全ての管理業務を他者に再委託すること、又は、管理業務を複数の者に分割して再委託して自ら管理業務を一切行わないことは、本条に違反します。
⑤財産の分別管理(法第16条)
賃貸住宅管理業者は、管理受託契約に基づく管理業務において受領する家賃、敷金、共益費その他の金銭を、整然と管理する方法により、自己の固有財産及び他の管理受託契約に基づく管理業務において受領する家賃、敷金、共益費その他の金銭と分別して管理しなければなりません。
⑥従業者証明書(法第17条)
賃貸住宅管理業者は、その業務に従事する使用人その他の従業者に、その従業者であることを証する証明書を携帯させる必要があります。この従業者証明書を携帯させるべき者の範囲は、賃貸住宅管理業者の責任の下に、当該賃貸住宅管理業者が営む賃貸住宅管理業に従事する者となります。
なお、賃貸住宅管理業者と直接の雇用関係にある者であっても、内部管理事務に限って従事する者は、従業者証明書の携帯の義務はありません。
⑦帳簿の備付け(法第18条)
賃貸住宅管理業者は、その営業所又は事務所ごとに、その業務に関する帳簿を備え付け、委託者ごとに管理受託契約について契約年月日等の事項を記載し、保存しなければなりません。
⑧標識の表示(法第19条)
賃貸住宅管理業者は、その営業所又は事務所ごとに、公衆の見やすい場所に標識を掲げなければならないこととされています。
⑨委託者への定期報告(法第20条)
賃貸住宅管理業者は、管理業務の実施状況その他の事項について、定期的に(1年を超えない期間ごとに、及び管理受託契約の期間の満了後遅滞なく)、委託者に報告しなければなりません。
委託者への報告を行うときは、以下の事項を記載した管理業務報告書を作成し、委託者に交付して説明しなければなりません。
・報告の対象となる期間
・管理業務の実施状況
・管理業務の対象となる賃貸住宅の入居者からの苦情の発生状況及び対応状況
⑩秘密を守る義務(法第21条)
契約期間や賃貸住宅管理業の継続の是非に関わらず、賃貸住宅管理業者は業務上得た情報を他に漏らしてはいけません。
4、監督(法第22~27条)
上記の行為規制については、国土交通大臣の監督がおよび、賃貸住宅管理業の適正な運営を確保するため必要があると認めるときは業務改善命令を、命令違反等の問題があった場合には、業務停止命令、登録の取消、抹消等をすることができるとされています。また、監督処分内容の公告、報告徴収、立ち入り検査等についても規定されています。