「ツイッター(Twitter)」は、簡便に日常に関する出来事などをツイート(※メッセージ等を投稿する機能)することによって、多数のユーザーと情報を共有できるソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)として、全世界で広く利用されています。
ツイッターには、他人のツイートをそのままツイートして、自身のフォロワー(投稿内容を見られるように登録している者)に情報提供するという「リツイート機能」が備わっています。
近時、名誉棄損表現に該当する元ツイートをリツイートして、自身のフォロワーに閲覧させた行為が、名誉棄損に該当するかを巡って、いくつかの裁判例が出ているため、今回は、それらの裁判例についてご紹介します。
1、大阪地方裁判所令和元年9月12日判決
(1)事案の概要
18万人のフォロワーを有するジャーナリストのYが、「Xが30代で大阪府知事になったとき、20歳以上年上の大阪府の幹部たちに随分と生意気な口をきき、自殺にまで追い込んだことを忘れたのか!恥を知れ!」等との記載のある元ツイートをリツイートしたことに対し、元大阪府知事のXが名誉棄損を主張してYを訴えた事案。
(2)判旨・結論
「……他者の元ツイートの内容を批判する目的や元ツイートを他に紹介(拡散)して議論を喚起する目的で当該元ツイートを引用する場合、何らのコメントも付加しないで元ツイートをそのまま引用することは考え難く、投稿者の立場が元ツイートの投稿者とは異なることなどを明らかにするべく、当該元ツイートに対する批判的ないし中立的なコメントを付すことが通常であると考えられる。したがって、ツイッターが、140文字という字数制限のあるインターネット上の簡便な情報ネットワークであって、その利用者において詳細な説明や論述をすることなく、簡易・簡便な表現によって気軽に投稿することが想定される媒体であることを考慮しても、上記のような、何らのコメントも付加せず元ツイートをそのまま引用するリツイートは、ツイッターを利用する一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、例えば、前後のツイートの内容から投稿者が当該リツイートをした意図が読み取れる場合など、一般の閲読者をして投稿者が当該リツイートをした意図が理解できるような特段の事情の認められない限り、リツイートの投稿者が、自身のフォロワーに対し、当該元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為と解するのが相当である。」、「本件投稿で引用された本件元ツイートの内容は、本件投稿の投稿者であるYによる、本件元ツイートの内容に賛同する旨の意思を示す表現行為としてのY自身の発言ないし意見でもあると解するのが相当であり、Yは、本件投稿の行為主体として,その内容について責任を負うというべきである。」として、Yに対し、33万円の支払を命じました。
2、大阪高等裁判所令和2年6月23日判決
(1)事案の概要
上記1の大阪地裁判決の控訴審(Yが控訴)。
(2)判旨・結論
「単純リツイートに係る投稿行為は、一般閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、元ツイートに係る投稿内容に上記の元ツイート主のアカウント等の表示及びリツイート主がリツイートしたことを表す表示が加わることによって、当該投稿に係る表現の意味内容が変容したと解釈される特段の事情がある場合を除いて、元ツイートに係る投稿の表現内容をそのままの形でリツイート主のフォロワーのツイッター画面のタイムラインに表示させて閲読可能な状態に置く行為に他ならないというべきである。そうであるとすれば、元ツイートの表現の意味内容が一般閲読者の普通の注意と読み方を基準として解釈すれば他人の社会的評価を低下させるものであると判断される場合、リツイート主がその投稿によって元ツイートの表現内容を自身のアカウントのフォロワーの閲読可能な状態に置くということを認識している限り、違法性阻却事由又は責任阻却事由が認められる場合を除き、当該投稿を行った経緯、意図、目的、動機等のいかんを問わず、当該投稿について不法行為責任を負うものというべきである。」とし、Yの控訴を棄却しました。
3、東京地方裁判所令和3年11月30日判決
(1)事案の概要
漫画家であるY1が、フリージャーナリストXを思わせる女性のイラストに「枕営業大失敗!!」などの文字を乗せた画像に「顔にこだわった!顔に!!まぁ、だいたいこんな感じじゃね?と理解w」とコメントを付けてツイートしたところ、Y2、Y3が上記ツイートをリツイートしたため、XがYらによる名誉棄損を主張した事案。
(2)判旨・結論
「ツイッターにおいて、投稿者がリツイート(他者のツイッター上の投稿(元ツイート)を引用する形式で投稿すること)の形式で投稿する場合、当該投稿者が、他者の元ツイートの内容を批判する目的等でリツイートするのであれば、何らのコメントも付加しないことは考え難く、当該投稿者の立場が元ツイートの投稿者とは異なることなどを明らかにするべく、当該元ツイートに対する批判的ないし中立的なコメントを付すことが通常であると考えられる。そうすると、ツイッターが、 1 4 0文字という字数制限があり、その利用者において、簡易・簡略な表現によって気軽に投稿することが想定されるSNSであること(弁論の全趣旨)を考慮しても、コメントの付されていないリツイートは、ツイッターを利用する一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、例えば、前後のツイートの内容から投稿者が当該リツイートをした意図が読み取れる場合など、一般の閲読者をして投稿者が当該リツイートをした意図が理解できるような特段の事情の認められない限り、リツイートの投稿者において、当該元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為と解するのが相当であるというべきである。」として、Y1に88万円、Y2・Y3にそれぞれ11万円の支払を命じました。
4、コメント
大阪地方裁判所令和元年9月12日判決と東京地方裁判所令和3年11月30日判決の判示内容は似通っており、いずれも原則的にリツイートは元ツイートの内容へ賛同する意思を示して行う表現行為と捉える考え方を示しました。これに対し、大阪高等裁判所令和2年6月23日判決は、名誉棄損表現を自身のフォロワーの閲読可能な状態に置くことへの認識を問題としており、やや異なるアプローチでリツイートを行った者の法的責任を認めています。
アプローチの違いこそあれど、名誉棄損ツイートのリツイートについても原則的に名誉棄損に当たるという判断自体は、裁判例上確立したといって過言ではありません。
上記の各裁判例には賛否両論のあるところと思われますが、各利用者において、リツイートも一種の表現行為であり、インターネットを通じた多数の閲覧者からリツイートがどのように見えるかという点も十分に踏まえ、自身のリツイートの意図を明確にするなどして、意図せぬ誤解を生まないようにツイッターを利用することが望ましいと思われます。