第1 はじめに
令和4年6月13日に、刑法の一部を改正する法律が成立し、懲役刑と禁錮刑を廃止し、新たな刑として拘禁刑が創設され、令和7年6月1日、施行されました。
第2 制度創設の経緯について
これまでの刑法では、刑罰の種類として、「死刑」「懲役」「禁錮」「罰金」「拘留」「科料」という6つの刑罰が定められていました。このうち、「懲役」と「禁錮」という2つの刑罰を撤廃して、新たに「拘禁」という刑罰が設置されました。
「懲役」刑は、刑務所に収容され、刑務所内における作業を強制される自由刑の1つです。刑務所内での作業が刑の本質的要素であり、どの受刑者も作業に一定の時間を割かなければならず、そのため、改善更生や社会復帰のために必要な指導等を行う時間の確保が困難な場合がありました。
一方、「禁錮」刑は、刑務所に収容され、刑務所内の作業を強制されない自由刑の1つです。刑務所内での作業を行う刑法上の義務はなく、本人の申し出に基づいて作業を行うことができますが、その作業が改善更生や円滑な社会復帰に有用な作業であっても、本人が希望しない限りは実施することができませんでした。また、「禁錮」刑により刑務所に収容された受刑者は、令和6年犯罪白書によると、令和5年の入所受刑者のうち0.3%と非常に少なく、禁錮刑の受刑者が刑務所内の作業を希望した場合は、懲役刑と何ら変わらない処遇となるため、懲役刑と禁錮刑を区別する実益はほとんど乏しいといわれていました。
そこで、上記の処遇形態によって画一的な処遇を行うのではなく、受刑者の特性に応じて、改善更生・再犯防止のために必要な作業を行い、または必要な指導を行うため、拘禁刑が新たな刑として創設されました。
第3 拘禁刑の内容
1 刑法第12条
改正後の刑法の条文は下記のとおりです。
(拘禁刑)
第12条
1項 拘禁刑は無期及び有期とし、有期拘禁刑は、1月以上20年以下とする。
2項 拘禁刑は刑事施設に拘置する。
3項 拘禁刑に処せられた者は、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、または必要な指導を行うことができる。
2 拘禁刑下の処遇
改正後の大きなポイントとして、拘禁刑下での処遇は、入所から出所まで、個々の受刑者の特性をきめ細かに把握しつつ、特性に応じてなされることになりました。具体的には以下のとおりです。
(1)強制処遇過程の新設
改正前は、再犯の可能性が高いか否かなどの犯罪傾向の進度によって、受刑者を分類して、集団を編成して処遇を実施していました。しかしながら、その集団の中には、反社会的勢力の受刑者もいれば、高齢者の受刑者や心身の傷害を有する受刑者がいたりするなど、様々な特性・属性の受刑者がいるにもかかわらず、受刑者の年齢、資質、環境などは考慮されず、画一的な処遇になっていました。
そこで、改正後は、受刑者の年齢、資質、環境その他の事情に応じた処遇指標を指定し、受刑者ごとの特性に応じた処遇を実施するため、矯正処遇過程が新設されました。
例えば、新設された高齢福祉過程では、70歳以上の者で、認知症、身体障碍等により自立した生活を営むことが困難な者を対象とした処遇を実施することになっています。また、福祉的支援過程では、精神上の疾病又は障害を有する者のうち、医療刑務所等に収容する必要性は認められないものの、自立した生活を営むことが困難な者を対象とした処遇を実施することになっています。
このように、受刑者の特性・属性に鑑み、最も必要性が高いとされる課程を指定して、当該矯正過程を中心として処遇を実施するということになります。
(2)矯正処遇の充実
改正前は、懲役刑であれば、作業を行うことが本質的要素となっており、作業を行うこと自体が目的化してしまっているという難点がありました。
しかし、拘禁刑の場合には、作業の必要性が認められた受刑者がどのように作業に就業することが適切か、また、その作業はどのような処遇効果が期待できるかを明確化し、作業を処遇の1つの手段ととらえることになります。また、作業を行うことにつき、受刑者に目標を考えてもらう等して、作業に取り組むことへの動機付けを十分に行い、受刑者の就労意欲を喚起し、個々の特性に応じた作業を適切に行うようになります。
(3)処遇調査の充実
そして、受刑者一人一人に対し、上記のような矯正処遇につき、適切な処遇を実施できるよう、処遇調査についても充実させることになっています。心理専門官を中心として、福祉専門官などを含めた多職種の職員が処遇調査に関与し、複層的な視点で調査をすることになります。
(4)社会復帰支援の充実
加えて、高齢、知的障害等の特性に配慮した処遇を行う必要性が特に高い受刑者に対して、刑事施設長の直轄に設置された「個別支援処遇推進チーム」による多職種の職員でのチーム処遇を実施して、受験者に寄り添った柔軟な処遇及び社会復帰支援が可能になります。
第4 まとめ
拘禁刑の新設により、受刑者の特性・属性に合わせた柔軟な処遇を実施し、受刑者の改善更生を支援し、受刑者の社会復帰後の再犯防止を図っていくための様々な取り組みが期待されます。