養育費の履行確保に向けた民法等の改正

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(令和8年4月1日施行)

1 はじめに
 これまで、離婚後に養育費を請求するためには、父母の協議や、家庭裁判所の調停・審判等の手続によって養育費の額を取り決めておく必要がありました。
 しかし、養育費の取り決めができていない場合には、そもそも養育費の請求自体ができず、また取り決めがあっても、相手方が支払いを怠ると、預貯金や給与の差押えを行うために、財産開示手続や第三者からの情報取得手続等を個別に申し立てる必要があり、実際に養育費を回収するまでの負担が非常に大きいものとなっていました。
 このような問題点を解消し、離婚後の子どもの利益を確保することを目的として、令和6年5月、民法・民事執行法等の大幅な改正がなされ、令和8年4月1日から改正法が施行されました。
 今回の改正により、
・養育費の取り決めがなくても請求できる「法定養育費制度」の創設
・養育費債権に対する先取特権の付与
・一度の申立てで財産調査から差押えまでの手続が連続して進む新たな執行制度の導入

などが盛り込まれ、養育費の履行確保の手段が大幅に強化されました。
 以下、ポイントをわかりやすく解説します。


 法定養育費制度の新設(改正民法第766条の3)
 今回の改正により、離婚の際に養育費の取り決めをしていなくても、離婚後にこどもを主として監護する親は、他方の親に対して一定額の「法定養育費」を請求できるようになりました。
 法定養育費は、離婚の日から当然に発生するものであり、支払義務のある親は、毎月末日までに当月分の法定養育費を支払う必要があります。
 
もっとも、この制度はあくまで養育費の正式な取り決めが行われるまでの暫定的な仕組みであるため、①父母間で正式な養育費の取り決めが成立した場合、②家庭裁判所の審判が確定した場合、③子どもが18歳に達した場合のいずれか早い時点で終了します。
 また、法定養育費の制度は、改正法の施行後に離婚した場合にのみ適用されるものであり、施行日前に離婚したケースには適用されません。
 「法定養育費」は、子ども1人あたり月額2万円(2人なら4万円、3人なら6万円)を暫定的に請求できる最低ラインの金額とされています。

 
3 養育費債権への先取特権の付与(改正民法第306条3号)

 養育費債権には新たに「先取特権」という優先的権利が付与されました。
 これにより、父母が養育費に関する取り決めを文書化し、公正証書等の一定の要件を満たす文書である場合には、従来のように必ずしも裁判上の債務名義(調停調書・審判書等)を取得しなくても、差押えの申立てが可能となります。
 これは、養育費の支払いが滞った場合に、より迅速な回収を図るための重要な制度です。

 
4 民事執行法の改正(改正民事執行法第167条の17第1項)

 従来、相手の財産状況がわからない場合には、
 ①財産開示手続の申立て
 ②金融機関・勤務先等への情報取得手続の申立て
 ③差押えの申立て
といった複数の手続を、段階的に個別で申し立てる必要がありました。
 今回の改正により、裁判所への1回の申立てで、財産調査から給与・預貯金等の差押えまで、一連の手続が連続して進められる仕組みが導入されました。
 これにより、手続の負担が大幅に軽減され、実際に養育費を回収できる可能性が高まります。