(最高裁平成29年3月15日大法廷判決)
1 事案の概要
被告人が複数の共犯者とともに犯したと疑われていた窃盗事件に関し、警察は、捜査の一環として、約6か月間にわたり、被告人や共犯者、被告人の知人女性も使用する自動車等19台に、被告人らの承諾なく、かつ、令状を取得することなく、GPS端末を取り付けた上、被告人らの所在を検索して移動状況を把握するという方法の捜査を実施した。
被告人に対する窃盗事件の公判では、GPS捜査の違法性が問われ、原審の大阪高等裁判所は、本件GPS捜査に「重大な違法があったとは言えない」として、GPS捜査によって得られた証拠について証拠能力を否定しなかった。
2 最高裁平成29年3月15日大法廷判決
最高裁判所大法廷は、裁判官の全員一致をもって、以下のとおり、令状なくして行われたGPS捜査は違法であるとした(ただし、本件GPS捜査によって得られた証拠及びこれと密接に関連性を有する証拠の証拠能力を否定する一方で、その余の証拠に基づき被告人を有罪とした第1審判決及び原審判決の結論に誤りはないとして、上告は棄却した)。
(1)「GPS捜査は、対象車両の時々刻々の位置情報を検索し、把握して行われるものであるが、その性質上、公道上のみならず個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて、対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする。このような捜査手法は、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うから、個人のプライバシーを侵害しうる」ものである。
(2)憲法第35条の保障対象には、住居、書類及び所持品に限らず「これらに準ずる私的領域に『侵入』されることのない権利が含まれると解するのが相当である。」
「個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、刑訴法上、特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる」から、「令状がなければ行うことのできない処分と解すべきである。」
(3)さらに本判決は、GPS捜査について、刑訴法が規定する令状を発付することには疑義があるとし、「GPS捜査が今後も広く用いられ得る有力な捜査手法であるとすれば、その特質に着目して憲法、刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましい」との判断も示した。
3 論評
GPS捜査について、下級審判決では令状が必要か否かについて判断が分かれていたところ、最高裁判決は「令状がなければ行うことのできない処分と解すべき」と判断し、こうした議論に終止符を打ちました。
憲法35条は「何人も、その住所、書類及び所持品について侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は・・(中略)・・令状がなければ、侵されない。」と規定しています。最高裁判所は、この規定の保護対象には住所、書類及び所持品に限らず「これらに準ずる私的領域に侵入される権利が含まれる」とした上で、GPS捜査は「個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法である」から令状がなければ行うことができないとして、同条に関する重要な判断を示しました。さらにこの規定の保護対象に、車両や罪名を特定しただけでは、容疑と関係のない行き過ぎた行動把握を抑制できないから、刑訴法が規定する令状を出すには疑義があり、GPS捜査の特性に合わせた新たな立法が望ましいとしました。
GPS捜査は限られた場面での必要性も意識されていますので、諸外国の法律を参考にしつつ、新たな法律の制定が待たれるところです。なお、現在ではスマートフォンを使った位置情報取得について、捜査機関が令状を示せば携帯電話事業者が情報を提供する仕組みが出来上がっているとのことですので、この点の議論も含めて立法作業がなされることが望ましいと思われます。