後見申立と遺留分減殺請求の消滅時効に関する裁判例

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(最高裁平成26年3月14日判決)

<事案の概要>
 亡きAは、遺産のすべてを長男Yに相続させる旨の遺言を作成し、平成20年10月22日に死亡しました。Aの妻であるXは、Aの死亡時において、Aの相続が開始したこと及び遺言の内容を知っていました。
  AXの二男らは、平成21年8月5日、Xについて後見開始の審判の申立てをし、平成22年4月24日、成年後見人としてB弁護士を選任する旨の審判が確定しました。
 B弁護士は、平成22年4月29日、Yに対し、遺留分減殺請求権を行使しました。

<争点>
 遺留分とは、一定の相続人のために、法律上取得することを保証されている相続財産の一定割合のことです。
  贈与や遺贈によって自分の遺留分を侵害された相続人は、贈与又は遺贈を受けた相手方に対し、遺留分減殺請求をすることができます。
 ただし、遺留分減殺請求権は、相続の開始および減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと、時効によって消滅します(民法1042条)。
 そのため、Xの遺留分減殺請求権は、Aが死亡した平成20年10月22日から1年間経過した時点で、時効によって消滅しているのではないかが問題となりました。

<裁判所の判断>
 最高裁判所は、時効の期間の満了前の申立てに基づき後見開始の審判がされたときは、民法158条1項の類推適用により、法定代理人が就任した時から6か月を経過するまでの間は、遺留分減殺請求権の消滅時効は完成しない、と判断しました。
 裁判所の判断によれば、本件では、Xについて時効完成前の申立てに基づき後見開始の審判がされていますので、B弁護士が成年後見人に就任してから6か月を経過するまでは、Xの遺留分減殺請求権の消滅時効は完成しないことになります。

<補足説明>
 民法158条1項は、「時効の期間の満了前6か月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から6か月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない」として、時効の停止を定めたものです。
 本件では、時効完成前に後見開始の審判がなされていない以上、Xは成年被後見人に該当せず、民法158条を直接適用することはできませんでした。
 しかし、Xは、時効完成前に時効中断の措置を取ることが出来ない状況にあり、成年被後見人と同様に保護すべき必要性がありました。また、時効の停止を認めても、時効を援用しようとするYの予見可能性を不当に奪うものではありませんでした。
 そのため、時効完成前の申立てに基づき後見開始の審判がされた場合には、民法158条1項の類推適用を認め、成年後見人が就任してから6か月が経過するまでは、時効が完成しないと判断されました。