改正消費者契約法と困惑惹起類型の追加

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1.はじめに
 平成12年に成立した消費者契約法は、事業者が消費者と消費者契約の締結について勧誘をするに際し、事業者が勧誘場所から退去しない行為(不退去、4条3項1号)、又は勧誘場所からの消費者の退去を妨害する行為(退去妨害、同項2号)によって、消費者の困惑を惹起し、契約に至った場合には、消費者から当該契約を取り消すことができる旨を規定していました。
 これに加えて、平成30年成立の改正消費者契約法(施行は令和元年6月15日)は、近時の消費者からの苦情相談の集積に基づいて、新たに以下に列挙する6つの行為類型を取り消し得る困惑惹起類型として規定しました。

2.追加された行為の類型

①社会経験不足者の不安をあおる告知行為(4条3項3号)
 ビジネス等の教室、エステ、タレント・モデル養成の勧誘などで若年層の相談件数が多い類型です。社会経験に乏しい消費者が抱いている「進学、就職、生計などの社会生活上の重要な事項」や「容姿、体型その他身体の特徴又は状況に関する重要事項」についての過大な不安を知りながら、これをあおって契約締結に至らせる行為が対象となります。

例:就活業者が、就活中の学生の不安を知りつつ、「このままでは一生成功しない、この就活セミナーが必要」と告げたので、学生は不安に思い、その就活セミナーへの申込みを行った。

②社会経験不足者の好意感情利用行為(4条3項4号)
 若年層が被害に遭いがちなデート商法に対応する類型です。この類型に当たるためには、単に事業者が社会経験に乏しい消費者の好意感情を利用するだけでなく、その勧誘に応じなければ両者間の関係が破綻する旨を告げている必要があります。

例:男性から電話があり、何度か電話するうちに好きになり、思いを伝えた。男性から宝石展示場に誘われ行ったところ、「買ってくれないと関係を続けられない」と言われたので、展示されている宝石を購入した。

③判断力低下者の不安をあおる行為(4条3項5号)
 加齢や認知症などによる心身の故障により消費者が契約締結について合理的な判断を行えないという事情を利用し、生活の維持に必要であるかのように告げて、消費者に不必要な物品を購入させたり、不必要なサービスに関する契約を締結させる行為が対象となっています。

例:業者が認知症で判断力が著しく低下した消費者の不安を知りつつ「この食品を買って食べなければ、今の健康は維持できない」と言ってきたので、不安に思ってその食品を購入した。

④霊感等知見を用いた不安をあおる行為(4条3項6号)
 いわゆる霊感商法に対応する類型です。多くの相談事例から、霊感などの合理的実証が困難な知見は消費者の合理的な判断を困難にすることが分かったため、そのような特別な知見によって、このままでは消費者に重大な不利益が生ずることを示して不安をあおる行為を新たに取消しの対象として規定しました。

例:「私は霊が見える。あなたには悪霊がついておりそのままでは病状が悪化する。この数珠を買えば悪霊が去る。」と告げられて勧誘されたので、不安に思ってその数珠を購入した。

⑤契約締結前の義務内容実施行為(4条3項7号)
 契約締結前に事業者が勝手に契約上の義務内容を実施し、消費者が契約を断っても、元に戻すのが難しいような状態になってしまうと、消費者が心理的負担を感じて、嫌々でも契約を締結してしまうケースがあるため、これを取消しの対象としました。

例:事業者が注文を受ける前に、自宅の物干し台の寸法に合わせてさお竹を切断し、代金を請求してきたので、なんとなく断りづらく、物干し台を購入した。

⑥契約締結を目指した活動による損失補償請求行為(4条3項8号)
 上記⑤の類型と同じく、消費者の心理的負担を利用して締結した契約を取り消しの対象とするものです。補償請求の対象となる行為は、調査、情報の提供、物品の調達など契約締結を目指した事業活動を広く含みますが、正当な理由があって損失補償をする場合(消費者が特別に要求した場合など)は取消しの対象となりません。

例:マンション投資の勧誘で会ってほしいと言われ会ったが、事業者は他都市の者で、「あなたのためにここまで来た、断るなら交通費を支払え。」と告げて勧誘してきたので、申し訳なく思い、契約を締結した。

3.おわりに
 上記2で述べた困惑惹起類型の追加により、不公正な取引における消費者救済の間口が広がりました。もっとも、上記2の①、②の類型が社会経験不足者に適用を限定しているなど、立法がモデルとした個別的な被害事例にアプローチしすぎているとして、適正な消費者の救済が可能か疑問視する声もあります。消費者契約法が単なる「後追い立法」として事業者とイタチごっこにならないためにも、法の趣旨に適った柔軟な解釈・運用が望まれます。