令和元年12月23日、最高裁判所から養育費、婚姻費用に関する新しい算定表が発表されました。
1、養育費・婚姻費用算定表と改訂の経緯
東京、大阪の裁判官の共同研究の結果作成された「養育費・婚姻費用算定表」(以下、「旧算定表」といいます)というものが、標準的な養育費及び婚姻費用を簡易迅速に算定することを目的として、広く活用されていました。
しかしながら、旧算定表は、2003年に公表されてから長期間が経過し、近年は「社会情勢が変化し、現在の生活実態にあっておらず低額に過ぎる」、「母子家庭の貧困を招いている」等と指摘がなされていました。また、民法改正による成年年齢の引き下げによる影響(いつまで養育費を支払うのか)についても検討する必要が指摘されていました。
そこで、最高裁判所は、東京及び大阪の家庭裁判所所属の裁判官を研究員とする司法研究を進めており、その研究報告として、令和元年12月に新しい「養育費・婚姻費用算定表」(以下、「新算定表」といいます)が発表されました。
2、新算定表の概要と主な変更点
(1)算定の枠組み表の形式は旧算定表と同様
新算定表も旧算定表と同様に収入按分型(生活保護基準方式)を基本的な枠組みとし、子の人数と年齢に従って使用する表を選択し、その表の縦軸で義務者の年収額を探し、そこから右方向に線をのばし、横軸で権利者の年収額を探して上に線をのばして、この二つの線が交差する欄の金額が、義務者が負担すべき養育費の標準的な月額を示すことになります。
(2)全体的に増加傾向
今回の改定により、統計資料・制度等については最新のものに更新される等した結果、計算過程で用いられる「基礎収入割合」や子の「生活費指数」も変更されることとなりました。
条件によっては旧算定表とあまり変わらない場合もありますが、全体的に見ると旧算定表よりも増額傾向にあり、特に高所得世帯においてはその傾向が顕著といえます。
※基礎収入割合の改訂前後の変化(金額は年間収入)
①給与所得者
改訂前 改訂後
0~100万円 42% 0~75万円 54%
~100万円 50%
~125万円 41% ~125万円 46%
~150万円 40% ~175万円 44%
~250万円 39% ~275万円 43%
~500万円 38% ~525万円 42%
~700万円 37% ~725万円 41%
~850万円 36%
~1350万円 35% ~1325万円 40%
~1475万円 39%
~2000万円 34% ~2000万円 38%
②自営業者(収入)
改訂前 改訂後
0~421万円 52% 0~66万円 61%
~82万円 60%
~98万円 59%
~256万円 58%
~349万円 57%
~392万円 56%
~526万円 51% ~496万円 55%
~563万円 54%
~870万円 50% ~784万円 53%
~975万円 49% ~942万円 52%
~1144万円 48% ~1046万円 51%
~1409万円 47% ~1179万円 50%
~1482万円 49%
~1567万円 48%
※子の生活費指数の改訂前後の変化
改訂前 改訂後
0歳から14歳まで 55 62
15歳以上 90 85
3、主な留意点
(1)新算定表の適用範囲
新算定表には説明書きの中で、「裁判所においてこの算定表が活用される場合にも、 裁判所の最終的な金額についての判断がこの算定表に示された金額と常に一致するわけではありませんし、当事者間の合意でも、いろいろな事情を考慮して最終的な金額を定めることが考えられます。ただし、いろいろな事情といっても、通常の範囲のものは標準化するに当たって算定表の金額の幅の中で既に考慮されていますので、この幅を超えるような金額の算定を要するのは、算定表によることが著しく不公平となるような特別な事情がある場合に限られることになると考えられます。」と記載されています。
そのため「算定表によることが著しく不公平となるような特別な事情がある場合」でない限り、算定表に拘束されるものと思われます。
(2)増額請求のための事情変更にならない
司法研究の概要として、新算定表の発表は、「養育費等の額を変更すべき事情には該当しない」と説明されています。
そのため、新算定表の発表時の時点で調停・審判中の事件に関しては適用されますが、すでに協議、調停や審判で金額が定められている場合は、今回の改定の事実を事情変更の理由として増額請求をすることはできないということになりそうです。