LPガス供給契約における中途解約条項を無効と判断した最高裁判例

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(最高裁判所第三小法廷令和7年12月23日判決)
1、事案の概要
 LPガス供給会社であるXが、Zから戸建て住宅(本件住宅)を購入したYとの間で締結したLPガス供給契約に定められた条項(本件条項)に基づき、Yが契約から10年未満で契約を終了させたとして、LPガス消費設備等の設置費用(本件設置費用)の残存額に相当する金員(本件算定額)17万3775円(及び遅延損害金)の支払を求めた事案です。
 本件条項は、Yが供給開始日から10年経過前にLPガスの供給を終了させる場合、Xに対し、本件設置費用に関して算定式で得られる金額を支払うというものでした(※)。Xは、本件住宅にLPガス消費設備等を設置しながら、本件住宅の販売業者であるZに対して本件設置費用を請求しておらず、Yは、本件住宅の購入に当たってZよりXからLPガスの供給を受ける必要がある旨説明を受けていました。
※本件条項の内容
①Xが本件住宅にLPガスを供給する期間は、供給開始日から10年以上とする。
②Xが負担した本件設置費用は21万円(消費税込み)であり、YがXから本件住宅へのLPガスの供給を受けている間、Xはこれを請求しない。
③Yは、供給開始日から10年経過前に本件住宅へのLPガスの供給を終了させる場合、本件設置費用に関し、Xに対し、次の算定式で得られた金額(本件算定額)を、供給終了後、直ちに支払う。
(算定式) 21万円-{21万円×0.9×(供給開始日から供給終了日までの経過月数/120)}


 Yは、本件条項が消費者契約法9条1号にいう違約金等条項に当たり、かつXに生ずべき平均的な損害は存在しないため全部無効である、と主張して争いました。


2、裁判所の判断
(1)1審(東京地方裁判所令和5年3月24日判決)

結論:請求棄却  【X敗訴】
理由:
 Xは、本件取決めをもって、本件消費設備等の費用そのものの支払を被告から受けようとしていたというよりも、中途解約の場合に同費用から算出された本件請求額の支払義務がYに発生するとの仕組みを用いることで上記のLPガスの供給による対価の支払いを維持しようとしたものというべきであり、この場合にYが負担する本件請求額の支払義務は、まさに中途解約に対する違約金というべきものであって、本件消費設備等の費用は、かかる違約金の算定方法として用いられたにすぎないものと見るのが合理的である。(中略)
 本件取決めは、Xの主張するような本件消費設備等費用を被告が負担する旨の合意ではなく、本件消費設備等の費用を算定の基礎として算出した中途解約に対する違約金を定める合意というべきものである。
 したがって、その余の点については検討するまでもなく、本件消費設備等の費用を被告が負担する旨の合意に基づくXのYに対する本件請求には理由がない(本件では、Xは中途解約に対する違約金の支払請求をしない旨の整理がされていることは事案の概要欄記載のとおりである。)。

(2)原審(東京高等裁判所令和5年10月26日判決)
結論:原判決取消し【X勝訴】
理由:
 本件取決めは、Xが負担した本件消費設備等の設置費用について、Xが本件契約に基づくLPガスの継続な供給(期間10年)によって得る利益をもってその回収に充てることとし、本件契約が所定の供給期間の経過前に解約された場合には、その未回収相当分を、本来設置費用を負担すべきYにおいて支払うことを定めたものと解され、また、本件取決めによりYが支払うこととなる本件消費設備等の設置費用は、本件契約所定の算定式によって算出される金額における基準となる費用の額が21万円(税込)であり、(中略)合理的なものであり、不相当に高額とはいえない
 また、Yは、本件取決めにより本件契約を継続すべき義務を負うものではなく、本来負担すべき本件消費設備等の設置費用の一切を負担して10年以内に本件契約を終了させるかどうかは、Yの自由な選択に委ねられているから、本件取決めが損害賠償額の予定又は違約金の定めを合意したものと解することはできない

(3)最高裁(本判決)
結論:原判決破棄 【X敗訴】
理由:
ア 本件条項は違約金等条項に当たる
 本件条項は、本件消費設備等の設置の対価を定めたものではなく、本件供給契約が供給開始日から10年経過前に解約されるなどしてXがその後のガス料金を得られなくなった場合に本件算定額の支払義務を負わせることで、短期間の解約が生ずることを防止し、本件供給契約を長期間維持することを図るとともに、併せて先行投資された本件設置費用に関してXが被る可能性のある損失を補てんすることも目的の一つとするものというべきであり、実質的にみると、解除に伴う損害賠償の額の予定又は違約金の定めとして機能するものということができる。
 したがって、本件条項は、違約金等条項に当たるというべきである。

イ Xに生ずべき平均的損害は存在しない
 供給開始日から10年が経過してもYがXに支払うべきガス料金が減額されることになっておらず、本件設置費用とガス料金との関係が不明確なものとされていたという本件供給契約の内容等からすると、Xにおいて、ある契約者に係る消費設備の設置費用は、契約者全体から得られるガス料金から回収する仕組みとなっていたものというべきである。
 このことに加え、本件供給契約と同種のLPガスの供給契約においてLPガスの価格に法令上の規制がなく、LPガス販売事業者は自由にガス料金を設定することができることも併せて考慮すると、Xとしては、解除時点では消費設備に係る設置費用の全部を回収できていない契約者が一定数生ずるという事態が起きることを見越し、利益が確保できるように契約者全体のガス料金を適宜設定し、設置費用が未回収となったことの負担を他の契約者に転嫁することが可能になっていたといわざるを得ない
 そうすると、上記事態が起きたとしても、Xに先行投資費用として負担した消費設備に係る設置費用の未回収分の損害が生じたとはいえないというべきである。
 以上からすると、本件供給契約と同種の消費者契約の解除に伴いXに生ずべき平均的な損害は存しないというべきである。
 ↓
 本件条項は、その全部について消費者契約法9条1号により無効となる。
 =Yは支払い義務を負わない。


3、コメント
(1)判決でも示されていますが、消費者契約にかかる契約条項が違約金等条項に当たる場合、その金額の全部又は一部が、当該契約と同種の消費者契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害、すなわち、一人の消費者と事業者との間で、同種の契約が解除されることによって事業者に一般的、客観的に生ずると認められる損害の額を超えるものである場合、同条項は当該超える部分について消費者契約法9条1号により無効となります。
 本件では、そもそも、Xに生ずべき平均的な損害は生じないとして、いわば本件条項全体が平均的損害を超えるものとして、全体を無効と判断しています。
(2)事実の評価、法的解釈の難しさからか、1審はX敗訴(本件条項は無効)、控訴審はX勝訴(本件条項は有効)、最高裁はX敗訴(本件条項は無効)と判断が次々に変わった事案であり、例えば、本件設置費用とガス料金との関係がより明確に規定されていれば、結論が異なった可能性もあります。