借地非訟事件について

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Q1.借地非訟事件というのは耳慣れないのですが、どういった争いでしょうか。
A1.「非訟事件」とは「訴訟に非ず」を表現した言葉です。すなわち、通常の訴訟手続きによらないで、裁判所が簡便迅速に後見的立場で「決定」することにより物事の処理をする事件類型のことです。
 民事訴訟手続との差異は、(1)非訟事件手続では、公開の口頭弁論を採用していないことや、(2)非訟事件手続では、裁判の基礎資料につき、当事者の提出した資料のみならず必要があれば裁判所が職権で探知できることなどです。


Q2.「借地」について、一定の事項について非訟事件の手続きとされているのはなぜですか。
A2.借地非訟の制度趣旨は、①借地に関する紛争の未然防止と円満な解決、②それによる当事者の利害調整、③土地の合理的利用の促進という社会経済的な観点にある、といわれています。


Q3.借地非訟の具体的制度はどうなっていますか。
A3.実体法としては、借地借家法において以下の申立てが制度設計されています。
①  事情変更による借地条件の変更、すなわち建物の種類、構造、規模又は用途を制限する旨の借地条件がある場合の変更(借地借家法17条1項)

例えば、借地条件が非堅固建物(木造など)の所有に限定されているがこれを堅固建物が建てられるように変更したいなど

②  建物の増改築を制限する旨の借地条件がある場合の条件変更の申立て(同17条2項)

③  更新後の建物再改築許可の申立て(同18条1項)

④  賃借権譲渡、転貸許可の申立て(同19条1項)

 借地上の建物取引に伴って、借地権譲渡や転貸について地主の承諾が得られない場合、承諾に代わる許可を申立てます。借地取引上しばしば出てくるタイプの事件です。

⑤  競売または公売に伴う賃借権譲渡許可の申立て(同20条1項)

⑥  建物および賃借権譲受けの申立て(同19条3項、20条2項)
 これは借地権譲渡、転貸許可の申立てをされた地主が、賃借人の建物を買い受ける旨の対抗措置の申立てができる規定となっています。


Q4.手続規定はどうなっていますか。
A4.借地非訟事件は、非訟事件の範疇にはいりますが、借地権設定者と借地権者という利害対立する当事者間の問題ですので、二当事者対立構造となっています。そして、当事者双方が主張・立証を展開するのを聞くための「審問」が必要的なものとして定められています。また、手続そのものは非公開ですが、相手方の陳述についても立ち合いが認められ、手続的には通常の民事訴訟手続きと変わらない運用となっています。


Q5.専門委員、鑑定委員会の関与はどうでしょうか。
A5. 新たに非訟事件手続法が制定され、専門委員の関与が認められました(非訟事件手続法33条)。例えば、建物の構造や朽廃の有無については建築専門家に現地を見てもらい、専門家の知見を導入することが考えられます。

また、裁判所は、各申立てに対する裁判、不随処分を含めて、原則として鑑定委員会の意見を聞くこととされ、実際には必須の手続きとして行われています(借地借家法17条6項、18条3項、19条6項、20条2項)。鑑定委員会に対する諮問事項は、申立の当否および不随処分の内容ということになります。例えば、「不随処分」として借地条件変更が認められる場合の借地権者から設定者に支払われる財産上の給付については、土地の更地価格や借地権価格を基準にしてその何割が妥当かという観点から考慮することになりますが、鑑定委員に不動産鑑定士に入ってもらう必要があるのです。因みに、この鑑定委員会の意見を出していただくのに、その費用は当事者負担とはなっていません。


Q6.審理は何回くらいで、どの程度の時間がかかりますか。
A6.当事者の審問は2~3回くらい、その後、鑑定委員会の意見を聴取しますが、鑑定委員会は現地を調査して意見書を提出します。その上で、裁判所は当事者の意見を聞き、和解が可能かを確かめ、和解不成立であれば裁判所としての決定を出します。従って、早くとも6カ月くらい、複雑な事案では9カ月くらいといわれています。


Q7.「不随処分」で出される財産上の給付内容はどの程度でしょうか。
A7.場合によって異なるので、どのくらいということはできません。
 おおよその目安ということになると、①非堅固建物から堅固建物に借地条件を変更する場合は、概ね更地価格の10%程度、②増改築許可では更地価格の3%から5%程度、③借地権譲渡許可であれば借地権価格の10%、ただし推定相続人が譲受人として申し立てる場合は借地権価格の3%程度が多いといわれています。なお、不随処分として賃料増額を行う場合もありますので留意が必要です。
 いずれにしても、不随処分は、更地価格、借地権価格、その他もろもろの条件を考慮して定められますので、一般論として予めいくらとは言えないことにご注意ください。