〜家族のあり方をめぐって〜
Q1、先日の日本経済新聞の記事によりますと、経団連は令和6年6月10日、選択的夫婦別姓の早期実現を求める提言をしました。婚姻時に夫婦いずれかの姓を選ばなければならない今の制度は「女性の活躍を阻害する。」「政府が一刻も早く改正法案を提出し、国会において建設的な議論が行われることを期待したい。」とのことです。
A1、
日本では明治31年に制定された旧民法で、夫婦は「家」の氏(※)を名乗ることを通じて同氏になるという考え方を採用しました。これが昭和22年の新民法では、戦後の男女平等の理念に沿って、夫婦はその合意により夫または妻のいずれかの氏にすることとしました(夫婦同氏制)。ところが現実には、「夫または妻のいずれかの氏」といっても、そのほとんどの場合夫の氏を名乗る結果となっています。
他方、世界の国々では全く異なる流れがあります。かつては夫婦同姓を義務付けていた国も次々と夫婦別姓を可能にしており、現在夫婦同姓を採用しているのは、世界で唯一日本だけと言われています。
※「名字」や「姓」のことを法律上「氏(うじ)」といいます
Q2、日本では、いまだに夫婦が別の名前を名乗ることを認めていないのは何故ですか?
A2、
政府の法律専門家の諮問機関である法制審議会では、30年ほど前の1996年に「選択的夫婦別姓」、いわゆる結婚後も夫婦が結婚前の名前を名乗ることを認めることを法務大臣に答申しています。しかし、政府は国民各層に様々な意見があるとの理由から法案として提出できないまま今日に至っているのです。
Q3、国民の中でも、賛成派・反対派・中間派とさまざまな意見があるようですね。
A3、
内閣府が実施した令和3年の世論調査によると、夫婦同姓を維持した上で、旧姓を通称として使用できる法制度を設けた方が良いと回答したのが43%と最も多い意見でした。年代別に見ると、若い人ほど選択的夫婦別姓を容認する声が多く、18~29歳では39.9%が賛成しています。一方で70歳以上では15.1%に留まっており、世代間の意見の違いがあります。
Q4、「夫婦同姓を強制するのは憲法違反なのでは」と訴えた人がいると聴いたんですが、これはどういうことでしょうか?
A4、
夫婦別姓での法律婚を認めない民法や戸籍法の規定は違憲(憲法違反)だとして、東京都の事実婚の男女が国に損害賠償を求めた訴訟がありました。結果として最高裁判所は平成27年、令和3年、令和4年と、過去3回に渡って「夫婦別姓を認めない現行法は憲法違反ではない」つまり「合憲」との判断を下しました。
<平成27年12月16日最高裁版判決(多数意見)趣旨>
(1) 夫婦同氏制について、「家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位と捉えられ、その呼称を一つに定めることには合理性が認められる」
(2) 氏を変更することによる不利益は「通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得るものである」
(3) なお、選択的夫婦別氏制については、「この種の制度の在り方は、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならない」と述べ、制度を採用するかどうかの議論を国会に委ねました。
Q5、最高裁で「合憲」とされたのであれば、それが結論なのではないですか?
A5、
過去の最高裁の判決は夫婦同姓が「合憲」となっていますが、議論の余地が全くなかったわけではありません。実際に平成27年の判決の際、15名の裁判官のうち5名は夫婦同氏を定める民法の規定は、家族生活における個人の尊厳と両性の平等を定める憲法24条に違反するとの意見を示しています。
<反対意見趣旨>
(1)96%を超える夫婦が夫の氏を称している現状は、「女性の社会的経済的な立場の弱さ、家庭生活における立場の弱さ、種々の事実上の圧力など様々な要因のもたらすところ」であり、「その意思決定の過程に現実の不平等と力関係が作用」しており、
(2)「その点を配慮しないまま夫婦同氏に例外を設けないことは、多くの場合妻となった者のみが個人の尊厳の基礎である個人識別機能を損ねられ、また、自己喪失感といった負担を負うことになり、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した制度といえない」
Q6、法律家の中でもさまざまな意見があるのですね。
A6、
国民の意識の変化に伴い、選択的夫婦別姓を認めない現行の制度が違憲と評価される日が来るかもしれません。
もっとも、その前に国会で議論を尽くし民法の改正が果たされるかもしれません。経団連の提言がそのきっかけとなればよいと思います。