印紙税のお話

カテゴリー
ジャンル


1 印紙税法の課税方式
 印紙税法は、従前は網羅的な課税方式とされていましたが、その後、印紙税法別表第1に課税文書を限定かつ個別的に掲載する限定列挙方式に改められました。したがって、別表第1に該当しなければ非課税ということになります。

2 業務委託契約について
 民法に業務委託契約という典型契約はありません。ただし、これもれっきとした私人間の契約です。もっとも業務委託契約の中身はというと、「請負」の要素が強いもの、「委任」の要素が強いものに分かれます(判断に迷う例もあります)。
 「請負」とは、当事者の一方(請負人)がある仕事の完成を約し、相手方(注文者)がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを内容とする契約をいい、民法第632条以下に規定されています。要するに、“請負人がある仕事の完成責任を負う契約”と言ってもよいと思います。
 「委任」とは、当事者の一方(委任者)が法律行為をなすことを相手方(受任者)に委託し、相手方がこれを承諾することによって効力を生ずるとされていて、民法643条以下に規定されています(委任事項が法律行為でない場合は「準委任」といいます)。請負とは仕事の完成を目的とするか否かで異なってきますが、有償委任で成功報酬制がとられてくると請負に類似してきます。
 よって、業務「請負」と業務「委任」の違いは、業務請負は「完成物や成果」に対して報酬が支払われるのに対し、業務委任は「実際に行った業務」に対して報酬が支払われる、ということになります。 なお、印紙税法は前述のとおり限定列挙方式ですから、請負であれば、別表第1の第2号文書「請負に関する契約書」に該当しますが、委任であれば別表第1に列挙されていないので印紙は不要となります。

3 請負契約の場合の貼付印紙
~2号文書か7号文書か~
(1) 印紙税法別表第1の2号文書
 「請負に関する契約書」は、契約金額が1万円未満は非課税、1万円以上から契約金額によって印紙税額が異なります。
(2) 印紙税法別表第1の7号文書
 「継続的取引の基本となる契約書(3か月以内は除く)」は印紙が4000円と定額になります。
 継続的取引の基本となる契約とは、売買基本取引契約書、運送取引基本契約書などが典型ですが、請負的要素の強い継続的取引もあります。期間が3カ月以上または更新の定めがあるものは、この7号文書に該当します。 


4 事例1
 

        コンサルタント業務委託契約書

甲と乙は、甲の業務コンサルタントについて次の通り契約を締結する

第1条   乙は、甲の発展に寄与するため、国内および国外の経済情報等の諸資料の分析並びに調査活動を通じて、甲の経営・企画等についてコンサルテーションをするものとする。

第2条   甲は乙に対し、コンサルテーションの報酬として、1年間につき金110万円(消費税込み)を支払うものとし、毎年6月1日及び12月1日に半額ずつを支払う。

第2条  本契約の有効期間は本契約締結日より2年とする。

 

 


 事例1の業務委託契約書ですが、乙の委託された業務の内容は第1条で「国内および国外の経済情勢等の諸資料の分析」「甲の経営・企画等についてコンサルテーション」とされています。乙に仕事の完成責任があるのではなく、委託された業務を遂行する責任があるにすぎないため、準委任契約的要素が強い契約といえます。
 したがって、「請負に関する契約書」には該当せず、印紙税法別表第1の課税文書とはいえないため、非課税になると解されます。

 
5 事例2

 

         機械保守点検契約書

甲と乙は以下のとおり契約する。

第1条 甲は、甲の工場設備の正常な稼働を維持するため、設備機械の保守業務の提供を乙に委託し、乙はこれを受託する。

第2条 本件保守業務の対価は、月額11万円(消費税込み)とし、甲は毎月末日までに乙の指定する銀行口座に振り込んで支払う。

第3条 この契約の有効期限は2年とし、双方異議ない場合同一条件にて更新するものとする。


 工場設備機械の保守は、設備機械を安全に稼働できる状態に保つことを仕事の完成とし、その仕事の結果に対して対価を支払うことを内容とするものですから、請負類似契約といえます。よって、印紙税法別表第1の2号文書に該当します。また、この契約の有効期間は2年間で、継続的な請負契約にあたりますので、第7号文書にも該当します。

<第2号文書と第7号文書の課税事項の記載がある場合の所属の決定>
 1つの文書が複数の課税文書に該当する場合、印紙税法では、複数の課税文書に係る印紙税額を合算するのではなく、その文書をいずれか1つの課税文書として扱い、その文書が所属することになる号の文書に係る印紙税額を課すことにしています(所属しなかった号の文書の部分については負担する必要はありません)。これを「所属の決定」と言います。所属の決定のルールについては、印紙税法別表第1の課税物件表の適用に関する通則3および印紙税法基本通達で定められています。
ア 契約金額の記載がある場合 : 第2号文書
イ 契約金額の記載がない場合 : 第7号文書
 事例2の文書には、契約期間2年の対価総額の記載はありませんが、1月ごとの対価の記載はあります(第2条)。このように月単位で金額を定めている契約書では、契約期間の記載のあるものは当該金額に契約期間の月数等を乗じて算出した金額を記載金額とし、契約期間の記載のないものは記載金額がないものとして取り扱うものとされています(印紙税法基本通達29条)。
 事例2の文書には、月11万円の単価と有効期間2年の記載がありますので、これを乗じて契約金額の算定をすることが可能であり、契約金額の記載がある場合にあたります。
 よって、事例2の文書は、第2号文書に所属が決定します。