「みなし残業代」について

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Q1、「みなし残業代」とは何でしょうか?
A1、
 「みなし残業代」とは、労働基準法37条・労働基準法施行規則19条で定められた時間外割増賃金、休日割増賃金、深夜割増賃金をあらかじめ定額で支給する支給方法です。「固定残業代」、「定額残業代」という言葉もみなし残業代と同じ意味で用いられます。
 みなし残業代には、基本給の中に固定残業代を組み込んでいる「組込型」と、割増賃金を支払う趣旨で一定の手当を支給する「手当型」があります。


Q2、「みなし残業代」ということは、実際にどれだけ時間外労働、休日労働、深夜労働をしたとしても、会社はあらかじめ定められた金額のみを支払っておけばよいのでしょうか?
A2、
 いいえ、違います。
 割増賃金の支払いを定める労働基準法37条は労使間の合意でも変更できない強行法規であるため、法にしたがって算定した割増賃金がみなし残業代を超えた場合には、その差額を精算して支払う必要があります。そのような意味で「みなし残業代」というネーミングはややミスリーディングだと思われます。


Q3、差額を精算しなければならないなら、会社にとってメリットがないようにも思うのですが、なぜ「みなし残業代」を取り入れる会社があるのでしょうか?
A3、
 みなし残業代を導入するメリットとして挙げられるのは、
①給与計算事務処理負担の軽減
②長時間労働の抑制
 ※長く働いても同じ残業代であれば長時間労働のインセンティブが減少するため。
③手取り総額を上げることによる採用上の訴求力の向上
等とされています。


Q4、私の勤めている会社に残業代を請求したら、「調整手当として毎月支給している金額が「みなし残業代」であり、追加で支払う残業代はない」と言われてしまいました。採用時には会社側からそのような説明はなかったと思うのですが、諦めるしかないでしょうか?
A4、
 その調整手当という名目で支給されている金銭が、残業代を支払う趣旨で合意されて給付されているかどうか(みなし残業代合意の有効性)が問題となります。
 みなし残業代合意の有効性に関する判例は数多くありますが、判例の傾向では概ね以下のような判断基準が確立されています。
(1)固定残業代(みなし残業代)の合意が認められるためには、割増賃金の金額が法の基準を下回らないかを検討する必要があるところ、その前提として、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができること(判別要件が必要であり、そのような判別ができるためには、当該手当等が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていること(対価性要件)が必要である。
(2)対価性要件の判断にあたっては、雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当等に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況等の諸般の事情を考慮して判断すべきであり、当該手当等の名称や算定方法だけでなく、当該労働契約の定める賃金体系全体における当該手当等の位置づけ等にも留意する必要がある。


※最高裁平成30年7月19日判決(集民259号77頁)、最高裁令和2年3月30日判決(民集74巻3号549頁)、最高裁令和5年3月10日判決(労判1284号5頁)等

 要するに、当該支給の名称や算定方法だけではなく、周辺の諸事情を考慮した上で、判別性要件と対価性要件が満たされる場合にみなし残業代合意の有効性が認められることになりますが、それらの要件を満たさない場合には、残業代は支払われていないことになるので、会社は別途残業代を支給しなければならないことになります。
 上記のとおり、判例の判断基準が複雑で個別具体的な事情も考慮する必要がありますので、会社の言い分に疑問がある場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。


Q5、会社が「みなし残業代」を導入する際に、その有効性を争われないようにするためにはどのような点に気をつけるべきでしょうか?
A5、
 Q4のとおり、みなし残業代合意の有効性については、諸事情を総合考慮して判断されるので、その内容に疑義が生じないためには、対策も総合的に行いたいところです。例えば、下記の点に気をつけるとよいでしょう。
①支給の名称
 名目から一見して割増賃金であることが分からないような名称は避け、「時間外勤務手当」等の分かりやすい名称を用いることが望ましいです。
②支給対象者
 時間外労働を行わない者にまで同様の支給を行っていると、固定残業代であると認めることは難しくなるので、時間外労働を行い得る者にのみ支給されているかを確認する必要があります。
③支給根拠
 支給が実績によって変動したり、経費の金額によって変動したりするような場合には、固定残業代以外の性質を含んでいるのではないかとの疑いが生じるため、そのような実績や経費との連動性のある給付項目とは明確に区別しましょう。
④採用時の説明
 労働条件通知書等において、当該手当等は時間外労働の対価として支給される固定残業代である旨がわかるような記載を行いましょう。
⑤みなし残業代の対象とする時間外労働の範囲
 就業規則等に、当該手当の金額と当該手当に含まれる時間外労働の時間数、対象とする割増賃金(時間外労働のみか、深夜労働も含むのか等)を明記しておくことが望ましいです。
⑥差額精算の運用
 就業規則等に、当該手当等に含まれる時間数を超えて残業が行われた場合には、別途精算する旨を明記しておくと、みなし残業代であることが分かりやすくなります。また、実際に当該手当等に含まれる時間数を超えて残業が行われた場合には、差額分を精算して支給しましょう。
⑦実際の残業時間とのバランス確保
 実際の残業時間と固定残業代が想定する労働時間数が著しく乖離する場合には対価性が疑われてしまうので、一定のバランスを確保しましょう。