「固定残業代」と「裁量労働制」について

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 昨年、“ 某大手企業が働き方改革の一環として、裁量労働制を拡大し、事務職や技術職の係長クラスなど、一部の労働者に対して残業代保証を取り入れた新たな給与制度を導入する ”という報道がありました。

 その新たな給与制度の概要は次のとおりです。

1.実際の残業時間に関係なく、一律に17万円(45時間の残業代に相当)を残業代として支給する。
2.実際に45時間を超えて残業した場合には、その時間分も残業代として支払う。
3.週に2時間以上出社すれば、在宅勤務を含めた社外での勤務が可能となる。

 
 

Q1 「固定残業代」って何ですか?

A1
 「固定残業代」とは、実際に残業した時間に関係なく、あらかじめ固定金額を残業代として決めておき、賃金として支給する制度です。

 そのため、上記1と2は従来から存在した固定残業代制と同じで、月の残業時間が45時間を下回る場合であっても、45時間分の残業代17万円が支給されることになります。

 
Q2 固定残業代は法律上許されるのですか?

A2 
 労働基準法に固定残業代について定めた規定はありません。しかし、こういった残業代についての取決めも、判例上は、実際の残業時間に応じた割増賃金を下回らないこと、割増賃金として法所定の額が支払われているか否かを判断できるように、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを明確に区別することを要件として認められてきました。

 上記の例もこの要件を満たし、適法であると考えられます。

 
Q3 「裁量労働制」というのは自分で働く時間を自由に決められる制度ということでしょうか?

A3 
 労働基準法上の裁量労働制は、法律で定められた一定の業務について、厳格な手続きを踏んだうえで、実際の労働時間に関係なく、労使協定で定める時間数を労働したものとみなす制度です。そのため、例えば、労使協定で8時間を労働したものとみなすと決められていれば、実労働時間が1時間であっても、8時間労働したものとみなされるということです。つまり、労働基準法上の裁量労働制であれば、会社からの指示を受けることなく、自分で働く時間を自由に決めることが可能となります。

 
Q4 裁量労働制は、どんな労働者に適用されるのですか?

A4 
 裁量労働制が適用できるのは、あくまで法律で定められた一定の業務です。具体的には、新商品または新技術の研究開発等の業務、人文・自然科学の研究の業務、情報処理システムの分析または設計の業務、新聞・出版の記事の取材・編集、放送番組制作のための取材・制作の業務、弁護士、公認会計士、税理士といった「専門的」な業務と「企画型」の業務です(詳しくは労働基準法38条の3第1項1号、同方38条の4第1項1号、労働基準法施行規則24条の2)。

 
Q5 報道で取り上げられた某大手企業の例は「裁量労働制の拡大」と言えるのでしょうか?

A5
 前掲の某大手企業の新制度概要の1と2だけでは単に固定残業代を取り入れただけであり、裁量労働制とは関係がありません。さらに、3については一見すると裁量労働制に似ているようにも思えますが、法律で定められた一定の業務以外には裁量労働制は適用できませんし、裁量労働制では「週に2時間以上出社する」との取り決めもできません。
 したがって、報道で取り上げられた某大手企業の例は、法律上の「裁量労働制」とは全く別の、企業独自の働き方に関する取決めになると思われます。

 
<最後に>

 労働基準法の枠内で、労働者各自が、自らの労働時間を一定程度自由に決定できることは、時間に拘束されずに、多様な働き方を生み出すことが可能な反面、企業が各労働者の労働時間を適正に把握し、業務量を調整することが出来なければ、長時間労働を強いる結果にもなりかねません。

 そのため、企業における新制度の運用方法が非常に重要になると思います。