民法改正(3)~保証について その1~
令和2年4月1日に施行された民法改正に伴い、「保証」の制度が大きく変わり、根保証の規律の対象が拡大されました。
1 極度額について
改正前
個人根保証契約のうち、「貸金等根保証契約」については保証の上限額である極度額を定めなければならない(旧民法465条の2)とされていました。
改正後
極度額を定めるべき場合を、貸金等に限らず個人根保証契約全般に拡大し、個人根保証契約は、主債務に含まれる債務の種類を問わず、書面または電磁的記録で、極度額を定めなければその効力を有しない(改正民法465条の2)としました。
※1「根保証」とは、特定の債権者と特定の債務者との間で、将来にわたって行われる種々の取引から生ずる不特定多数の債務を、将来にわたって保証人が保証するというものです。
※2「極度額」とは、根保証の責任を負う額の上限のことです。
※3 保証人が法人である場合には、極度額の定めがなくても、根保証契約は効力を生じますが、その場合、その根保証契約に基づいて発生する求償債務を個人が保証する保証契約は効力を生じないとされました(改正民法465条の5)
※4 身元保証法が適用される契約のうち、狭義の保証契約に該当するものは、改正法の適用があることは当然ですが、その他の契約類型のものについては改正法の適用があるのか議論があります。
□賃貸借契約への影響
①高額な極度額により保証契約が無効になるリスク
賃貸借契約において、極端に高額な極度額を設定した場合、公序良俗に反するものとして保証契約が無効になるリスクがあります。
国交省の調査資料「極度額に関する参考資料(平成30年3月)」によると判決で容認された連帯保証人の負担額は中央値で家賃12か月分、平均で家賃13か月分、最大で家賃33か月分となっています。この国交省の調査資料は、判決で連帯保証人に命じられた保証債務額であるため、少なくとも、極度額がこの範囲内であれば、民法改正施行後も、有効とされる可能性が高いといえそうです。
(一社)全国賃貸不動産管理業協会(全宅管理)による全会員を対象としたアンケート調査(令和元年12月実施)では、多くが「賃料の2年分」もしくは「賃料の1年分」と回答しています(2年分以下が7割)。
賃貸借契約は2年契約が多いので、家賃の24ヶ月分に更新料を加えた金額くらいを目安に考えるとよい、等様々な考え方があります。
②「賃料○か月分」「年間賃料の○割」という定め方の有効性
このような定め方であっても、確定的な賃料額が併せて記載されていれば、保証人の予測可能性が担保されるので有効と思われます。単に、「家賃の○ヶ月分」と表記すると極度額が確定していないと見なされて、無効になってしまう可能性が指摘されています。
なお、賃料が増額されても極度額は増額できません(改正民法448条2項)。
③賃貸借契約の途中で保証債務が履行された場合
極度額は、連帯保証人の負担する債務の総額という考え方のため、一部履行された場合は、極度額が減縮すると考えられますが、脱法的に利用される可能性もあり、実際に保証人が払ったのかが争われることも想定されます。
2 元本確定事由について
改正前
貸金等根保証契約の元本確定事由として、以下の事由が定められていました。
① 債権者が、主債務者又は保証人の財産について、金銭の支払いを目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。但し、強制執行又は担保権の実行手続の開始があったときに限る。
② 主債務者又は保証人が破産開始の決定を受けたとき。
③ 主債務者又は保証人が死亡したとき。
改正後
個人根保証契約一般についても、上記①、②の内、主債務者の部分を除外した限度で適用される(改正民法465条の4)とされました。したがって、貸金等根保証契約を除く個人根保証契約一般の元本確定事由は以下の通りとなります。
① 債権者が、保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。但し、強制執行又は担保権の実行手続の開始があったときに限る。
② 保証人が破産開始の決定を受けたとき。
③ 主債務者又は保証人が死亡したとき。
※5 元本確定事由 契約期間中は、(極度額の範囲内で)ある取引について一切の保証義務が発生するのが根保証契約でしたが、ある事由が発生した場合には元本が確定し、その後に発生した新規の債務については、保証人は保証義務を負わないとされています。この事由を「元本確定事由」と言います。