相続法の改正(1)~配偶者居住権制度

カテゴリー
ジャンル

Q1、相続法の改正で、配偶者の居住権を保護するための制度(長期居住権)が設けられましたが、この制度が設けられた理由は何ですか。
A1、
 従前、配偶者が居住していた建物に住み続けたいと希望する場合には、建物の所有権を相続で取得するか、建物所有権を取得した他の相続人との間で賃貸借契約を締結する必要がありました。しかし、居住建物の所有権を相続で取得すれば、一般に建物の評価は高額ですから、預貯金等の取得分が少なくなって生活に支障をきたすことになります。また、建物を取得した他の相続人との間で賃貸借契約を締結できる保証はありません。
 新法は、このような生存配偶者の立場を考慮して配偶者居住権制度を創設したのです。

Q2、配偶者居住権の制度概要はどのようなものですか。
A2、
 配偶者居住権は、相続開始の時、被相続人の住居に居住していた生存配偶者に、原則として終身、その住居に無償で生活できる権利を確保する制度です(改正民法1028条)。
 この権利は、一定要件の下に、①遺産分割で合意された場合、②遺言がある場合、または③家庭裁判所の審判で取得されます。
 配偶者居住権を設定することで、例えば、建物所有権は子に相続させ、配偶者は建物に居住する権利を取得することで配偶者の居住の安定をはかりつつ、居住する権利(従来の賃借権に類似します)は所有権に比して低額と評価されることから、生存配偶者は居住権以外の財産も取得できるようになるのです。なお、この配偶者居住権は、登記をすることにより所有者から建物所有権を取得した第三者に対抗することができます。

Q3、遺産分割において配偶者居住権の評価はどのようにされるのでしょうか。
A3、
 配偶者が配偶者居住権を取得した場合、その財産価値に相当する価額を相続されたものとして扱われます。そこで問題は、配偶者居住権の価格をどのように算定するかですが、法制審議会の議論でも様々な案が出されましたが、結局まとまらず、法施行時までに法務省から評価方法についてのガイドラインが出されることになりました。

Q4、配偶者居住権は譲渡ができますか、また配偶者が死亡した場合はどうなりますか。
A4、
 配偶者居住権は譲渡ができませんし、また建物所有者に対する買取り請求権も有しません。
 そして、配偶者居住権は、配偶者の死亡により消滅するとされています。

Q5、配偶者短期居住権制度の内容と、制度が設けられた理由はどこにありますか。
A5、
 配偶者短期居住権制度は、被相続人が所有する建物に配偶者が無償で居住している状態で被相続人が死亡した場合に、遺産分割成立時までの期間中(最低でも6か月)、配偶者が従前の居住を無償で続けられるという制度です(改正民法1037条)。この制度は、急な引っ越しが困難と思われる高齢配偶者を念頭に、配偶者の当面の居住状態を保護するためのものです。

Q6、配偶者短期居住権の存続期間はいつまでですか。
A6、
 短期居住権の存続期間は、㋐共同相続人間で遺産分割すべき場合は、遺産分割時まで(ただし、相続開始から6か月は存続する)、㋑それ以外の場合(遺言で他の者が建物を取得した場合など)は他の者の建物取得による短期居住権消滅の申し入れから6か月後までとされています。

Q7、配偶者短期居住権は、配偶者の具体的相続分にどのような影響をあたえるのですか。
A7、
 短期居住権によって配偶者が得た利益は、配偶者の具体的相続分には含まれず、その意味で、配偶者の相続分が減少することはありません。

Q8、配偶者居住権(長期・短期)の制度は、いつから施行されますか。
A8、
 施行日は2020年4月1日とされています。この制度は施行日以降に相続が開始した場合に適用され、それ以前の相続については適用されませんので、注意が必要です。