~「民法等の一部を改正する法律」及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」~
Q1.所有者不明土地問題とはどのような問題ですか。
A1.
近年、相続が発生しても登記がなされないことなどを原因として、不動産登記簿により所有者が直ちに判明せず、また、判明しても連絡が取れない、いわゆる所有者不明土地が増加しています。所有者不明土地は、管理の放置による環境悪化を招くほか、公共事業の土地買収や民間の土地取引の際に所有者探索に多大の時間と費用を生じさせるなど、国民経済に著しい損失を生じさせる問題となっています。
Q2.所有者不明土地は全国にどの程度存在するのですか。
A2.
国土交通省が実施した平成29年度地籍調査における土地所有者等に関する調査によると、不動産登記簿のみで所有者等の所在を確認できない割合は約22.2%であったとのことで、その面積は九州本島の面積を超えているほどです。
Q3.そもそも「所有者不明土地」とはどういった土地を意味しているのですか。
A3.
「広義の不明」とは、不動産登記簿等により所有者が直ちに判明せず、また判明しても連絡がつかない土地をいいます。
これに対し「狭義の不明」とは住民票、戸籍調査等の追跡調査を行っても所有者またはその所在が分からない土地をいいます。例えば、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の「所有者不明土地」は、「相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索を行ってもなおその所有者の全部又は一部を覚知することができない一筆の土地」(同法2条1項)を意味しますが、これは狭義の所有者不明土地と言います。狭義の所有者不明土地は、全体の0.4%程度といわれています。
Q4.所有者不明土地の類型を教えてください。
A4.
所有者が不明化する原因は相続登記未了など様々ですが、これを類型化すると以下のようになります。
① 相続登記未了型(相続登記がなされず、名義人の相続人が所有者となっている場合)
② 所在不明型(住所登記変更の未了により、所有者の所在(転居先)が不明な土地)
③ 表題部所有者不明型(権利部の登記がなく、表題部所有者欄が正常に登記されていない土地)
④ 解散法人型(法人がすでに解散している土地)
⑤ 法人代表者不明型(所有者とされる法人の代表者が死亡又は所在不明の土地)
Q5.所有者不明土地問題に対してどのような方策がとられたのですか。
A5.
令和3年4月、「民法等の一部を改正する法律」と「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立し、公布されました。そして、今回の改正では、極めて多岐にわたる見直しが行われ、実務に与える影響は大きいともの思われます。
第1に、所有者探索の負担を軽減するための方策がとられました。
① 不動産登記情報を最新の状態に更新する方策として、相続の発生や登記名義人の住所変更等の登記申請が義務化されました(改正不動産登記法76条の2、164条1項)。
② 遺産分割を促進するため具体的相続分の期間制限に関する規律が設けられました。
具体的には、相続開始から10年を経過すると、特別受益や寄与分の主張ができず(改正民法904条の3)、その結果法定相続分に基づき遺産分割をすることになり、分割手続きが簡素化されました。
また、共有物について遺産共有持分と通常共有持分が併存している場合、相続開始から10年が経過したときは、遺産共有持分についても遺産分割手続によらず共有物分割訴訟によって分割できることにしました(改正民法258条の2第2項本文)。
③ さらに、土地所有に対する負担感(土地の価値が低い場合がそれにあたります)が所有者不明土地を生み出す原因となっていることから、土地所有権を手放すための制度として相続土地国庫帰属制度が創設され、相続により取得した土地に限り、要件を厳格にし、10年分の管理コストを負担させることを条件に、国庫に帰属させる制度を創設しました。
第2に、所有者不明土地を円滑かつ適正に利用・管理するための改正がなされました。
④ 所有者不明土地の管理に特化した所有者不明土地等管理制度が創設されました(改正民法264条の2)。対象となるのは、「所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地」で、自然人の場合、戸籍や住民票の調査をしたが不明であることを要するとされました。
⑤ 共有者の所在が不明で共有物の変更や管理に支障をきたす場合があります。そこで、裁判所の関与のもとで、共有物の変更や(改正民法251条2項)、共有物の管理(同252条2項)を可能としました。また、共有不動産について、裁判所の関与の下で、所在不明共有者の持分を他の共有者や第3者に譲渡を可能とする制度を新設しました(同262条の2及び3)。
⑥ 共有物の適切な管理を促進する制度として、共有物の管理者制度が新設され(同252条、同条の2)、所在不明共有者がいる場合にも、裁判所の関与の下で管理者を選任できることとしました(同252条2項)。
第3に、相隣関係の規律の見直しがされました。
⑦ 例えば、ライフライン敷設のために隣地を利用する必要が生じても、その隣地が所有者不明土地である場合、所有者探索や訴訟手続きが過大な負担となっていました。そこで、隣地使用権は、隣地所有者の承諾を要せず、一定の要件を充足すれば当然に発生するものとしました(改正民法209条1項)。ただし、当然の権利発生とすると、一方的な立ち入りや使用が頻発し紛争が多発する懸念があることから、隣地使用の範囲を限定し、隣地使用前の通知を義務づけました(同条2項、3項)。
Q6.改正法の施行はいつからですか。
A6.
改正法の施行時期は以下のとおりです。
🔲相続制度の見直し(②)、所有者不明土地等管理制度が創設(④)、共有制度の見直し(⑤、⑥)、相隣関係規定の見直し(⑦)
→令和5年4月1日から施行
🔲相続土地国庫帰属制度(③)
→令和5年4月27日から施行
🔲相続登記の義務化(①)
→令和6年4月1日から施行