選択的夫婦別氏制に関する最高裁判所の判断

カテゴリー
ジャンル

(最高裁判所平成27年12月16日判決、同裁判所令和3年6月23日決定)


1.はじめに

選択的夫婦別氏制(いわゆる「選択的別姓制度」)とは、夫婦が希望する場合には、結婚後もそれぞれ結婚前の氏(「名字」や「姓」のことを法律上「氏」といいます)を名乗ることを認めるというものです。もっとも、現在の日本では認められておらず、夫婦は必ず同じ氏を名乗らなければならない「夫婦同氏制」が採用されています。

昨今、この夫婦同氏制は憲法違反ではないか争われ、最高裁判所大法廷は、平成27年と令和3年の2度にわたり「合憲」との判断を下しました。

以下、最高裁の判断を紹介します。


2.平成27年12月16日最高裁判決について

この事案は、夫婦同氏制を定める諸規定が憲法違反であるとして、国に対し、国家賠償を求めたというものです。判断は多岐にわたりますが、最高裁は、特に憲法24条(婚姻の自由)との関係において、次のように判示しました。

<要旨>
(1)「家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位と捉えられ、その呼称を一つに定めることには合理性が認められる。」そして、夫婦同氏制は、家族という集団の構成員であることを「対外的に公示し、識別する機能を有している。」特に、夫婦間の子が「嫡出子であることを示すために・・・一定の意義がある」。加えて、「夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではなく、夫婦がいずれの氏を称するかは、夫婦となろうとする者の協議に委ねている。」
(2)これに対して、「近時、婚姻前の氏を通称として使用することが社会的に広まっているところ」、婚姻により氏を改める者の不利益は「通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得るものである。」
(3)したがって、夫婦同氏制は「合理性を欠く制度であると認めることはできない」として合憲と判断。
(4)なお、選択的夫婦別氏制については、「そのような制度に合理性がないと断ずるものではない」として、「この種の制度の在り方は、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならないというべきである。」
(5)ちなみに、15人の裁判官のうち5人が憲法違反であるとの意見を示しています。


3.令和3年6月23日最高裁決定について

この事案は、婚姻届を提出する際、「婚姻後の夫婦の氏」欄に「夫の氏」「妻の氏」両方のチェックを入れたところ不受理とされたため、夫婦同氏制を定める諸規定は憲法違反で無効であるから届出を受理するよう申し立てたというものです。最高裁は、概要、次のように判示しました。

<要旨>
(1)夫婦同氏制が「憲法24条に違反するものでないことは、当裁判所の判例とするところであ」る。
(2)「平成27年大法廷判決以降にみられる女性の有業率の上昇、管理職に占める女性の割合の増加その他の社会の変化や、いわゆる選択的夫婦別氏制の導入に賛成する者の割合の増加その他の国民の意識の変化といった原決定が認定する諸事情等を踏まえても、平成27年大法廷判決の判断を変更すべきものとは認められない。」
(3)「なお、夫婦の氏についてどのような制度を採るのが立法政策として相当かという問題と、夫婦同氏制を定める現行法の規定が憲法24条に違反して無効であるか否かという憲法適合性の審査の問題とは、次元を異にするものである。」「この種の制度の在り方は、平成27年大法廷判決の指摘するとおり、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならないというべきである。」
(4)ちなみに、15人の裁判官のうち、4人が憲法違反であるとの意見を示しています。


4.反対意見の紹介

令和3年6月23日最高裁決定での少数(反対)意見の要旨は以下のとおりです。
(1)婚姻前の氏使用は、女性の社会進出の推進、仕事と家庭の両立策などによって婚姻前から継続する社会生活を送る女性が増加するとともにその合理性と必要性が増している
(2)96%を超える夫婦が夫の氏を称している現状は、女性の社会的経済的な立場の弱さ、家庭生活における立場の弱さ、種々の事実上の圧力など様々な要因のもたらすところであり、その意思決定の過程に現実の不平等と力関係が作用しており、その点を配慮しないまま夫婦同氏に例外を設けないことは、多くの場合妻となった者のみが個人の尊厳の基礎である個人識別機能を損ねられ、また、自己喪失感といった負担を負うことになり、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した制度といえない。
(3)夫婦同氏(ひいては夫婦親子の同氏)が、第三者に夫婦親子ではないかとの印象を与え夫婦親子との実感に資する可能性があるが、問題は、夫婦同氏であることの合理性ではなく、夫婦同氏に例外を許さないことの合理性なのである。
(4)多数意見の指摘する通称使用による不利益緩和については、「法制化されない通称は、通称を許容するか否かが相手方の判断によるしかなく、氏を改めた者にとって、いちいち相手方の対応を確認する必要があり、個人の呼称の制度として大きな欠陥がある。
(5)未成熟子に対する養育の責任と義務という点において、夫婦であるか否か、同氏であるか否かは関わりがないのであり、実質的に子の育成を十全に行うための仕組みを整えることが必要とされているのが今の時代にあって、夫婦が同氏であることが未成熟子の育成にとって支えとなるものではない。


5.おわりに

以上のとおり、最高裁は、夫婦同氏制については「合憲」であるとしたうえで、選択的夫婦別氏制を採用するかどうかの議論は国会に委ねる、との姿勢をとっています。

平成29年に内閣府が実施した世論調査によると、選択的夫婦別氏制を「容認する」と回答した人は過去最高の42.5%となりました。他方、「必要ない」29.3%、「夫婦は同姓を名乗るべきだが、旧姓を通称として使用できる法改正は容認する」24.4%と、夫婦同氏制を支持する人の合計は53.7%あり、世論は賛否二分の状況です。

国民間に様々な意見があることを踏まえ、今後、国会において十分な議論がなされることが期待されます。