認知症高齢者の徘徊による列車事故につき民法714条の監督義務者の責任を認めた裁判例

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認知症高齢者の徘徊による列車事故につき民法714条の監督義務者の責任を認めた裁判例
(名古屋高裁平成26年4月24日判決)

1 事案の概要
 認知症を患った高齢のAがX(鉄道会社)の駅構内の路線に立ち入り列車と衝突して死亡した事故につき、XはAの妻であるY1と子のY2に対し民法709条の不法行為責任または714条の責任無能力者の監督義務者の責任として、719万7740円を請求した。
 原審の名古屋地方裁判所は、Xの請求を全部認容したので、Y1とY2が控訴した。

2 名古屋高等裁判所は
①配偶者の一方が精神衛生法上の精神障害となった場合の他方の配偶者は、現に同居して生活している場合には、原則として民法714条1項の監督義務者に該当する。
②認知症を発症している高齢者の子については、高齢者の配偶者による身上監護のための補助行為を行っていたにすぎず民法714条所定の監督義務者とはいえない。
③加害者側の諸事情と、被害者側の諸事情を総合的に勘案して、監督義務者が被害者に対し賠償する額を、損害の公平な分担を図る趣旨のもとに被害者が被った損害の一部とすることができる
として、XのY1に対する請求を認め、ただし原審の認容額の2分の1である359万8870円の支払いを命ずるとともに、XのY2に対する請求を棄却した。

3 民法714条の解釈
 民法714条は、不法行為をした者に責任能力がない場合、責任無能力者を監督する法定の責任を負うものは、責任無能力者が第三者に与えた損害を賠償する責任があるとする規定です。本件は、認知症を患った高齢の夫が徘徊のうえ列車と衝突し死亡した悲しい事案ですが、裁判所は、同居していた高齢(91歳)の妻に監督義務があるとして責任を認め、ただし、損害の公平な分担の趣旨から、賠償額を半額としたものです。
 ただし、別居の子には監督義務を認めませんでした。