「特別支配株主の株式等売渡し請求」制度について

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Q1、平成27年5月1日から施行されている改正会社法で「特別支配株主の株式等売渡請求」の規定が新設されましたが、この制度の趣旨はどこにあるのですか。

A1、支配株主の主導で、現金を対価として、少数株主を強制的に会社から排除することを「キャッシュアウト」といい、少数株主から見れば締め出されるという意味で「スクイーズアウト」とも呼ばれます。中小企業の事業承継や相続、M&Aなどの際に少数株主の存在が障害になる場合があり、オーナー経営者に株式を集中させるためにキャッシュアウトが有効な手段となります。
 従来からも、株式併合や全部取得条項付種類株式を利用してキャッシュ・アウトすることは可能でした。しかし、かなり手間がかかることや、そもそもの制度目的とは異なる流用的な使い方でした。そこで、新法は、正面からキャッシュ・アウトの制度、すなわち支配力のある株主が少数派株主の株式を、その承諾を得ることなく直截に金銭を対価として取得する手法を設けたのです。

Q2、制度の概要はどのようなものですか、一部の種類の株式だけを取得することはできますか。

A2、自己及び完全子会社と合算して、その会社の議決権の10分の9以上を有する株主を特別支配株主といいます。そしてこの制度は、特別支配株主が全ての株式を一括して自分に売り渡すよう請求できるというものです。また、新株予約権者がいれば、その全員に対しても同様の請求ができます。

Q3、具体的な手続きはどのようになるのですか。

A3、
ア、特別支配株主は、対象会社に対し、株式売渡請求をする旨を通知し、また、売渡し株主(売渡しを強制されて株式を失う株主)に対し、対価の額又はその算定方法、株式取得日などを通知します。
イ、売渡請求を受けた対象会社は、取締役会等の決議によりその承認をするか否かの決定をし、承認したときは取得日の20日前までに売渡し株主に対し、次の事項を通知しなければならないとされています。
 ①当該承認をした旨
 ②特別支配株主の氏名又は名称及び住所
 ③株式等売渡請求決定事項
ウ、特別支配株主は、取得日に売渡株式を取得し、対価である金銭はその日に売渡し株主に交付しなければならないとされています。

Q4、売渡し株主の救済制度は取られていますか。

A4、売渡し株主の保護のための制度としては、
ア、対価が対象会社の財産の状況などに照らして著しく不当な場合の差し止め請求
イ、取得日の20日前から取得日の前日までの間にする裁判所への売買価格の決定の申立
ウ、売渡株式取得の無効の訴え
 があります。

Q5、この制度の使い勝手はどうでしょうか。

A5、まだ制度が浸透しているとはいえませんが、以下の点で、オーナーへの会社支配権の集中が簡便に達成できる制度といえます。
①定款変更の必要が無い点
②売渡し株主個々の承認を得る必要はなく会社の承認で足りる点
③会社の株主総会の決議が求められない点
④取得日に自動的に買い取りの効果が生じる点

もっとも、対価の妥当性など、請求の承認に関する判断には取締役または取締役会の責任が生じますので、実行にあたっては十分な注意が必要です。