WEB購入チケットのキャンセル制限と転売制限に関する裁判例

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大阪地裁令和5年7月21日判決
(大規模テーマパークのWEBチケット販売の規約において、一定の場合を除き解除ができない旨の条項及びチケットの転売を禁止する旨の条項が消費者契約法10条に該当しないと判断した裁判例)


<事案の概要>
 大阪の適格消費者団体であるXが、大規模テーマパークであるユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下、「USJ」といいます)を運営するY社に対して、同社のWEBチケット利用規約中にある、①一定の場合を除きチケットを購入後は契約を解除できないとする条項(以下、「解除制限条項」といいます)と、②チケットの転売を禁止する旨の条項(以下、「転売禁止条項」といいます)が消費者契約法10条等に該当すると主張し、同法12条3項に基づき、本件各条項を内容とする意思表示の停止等を求めた事案です。
 以下に、実際に問題とされた条項と、消費者契約法10条の条文を掲載します。

(WEBチケット利用規約)

第3条:禁止行為について
1.お客様が、第三者にチケットを転売したり、転売のために第三者に提供することは、営利目的の有無にかかわらず、すべて禁止します。また、営利の目的として第三者にチケットを無償で譲渡することも禁止します。(転売禁止条項
第8条:キャンセル、変更について
1.チケットの種別、理由の如何にかかわらず、購入後のキャンセルは一切できません。但し、法令上の解除または無効事由等がお客様に認められる場合にはこの限りではありません。(解除制限条項
2.日付変更可能な期間は、ご購入の際に指定した「当初の入場予定日」の翌日から90日後までです。ただし日付変更ができるチケットのみ対象です。

 

(消費者契約法10条)
 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは無効とする。


 なお、USJのチケットには、入場に際して必要となる「スタジオ・パス」、一部のアトラクション等への優先入場などのための「エクスプレス・パス」、当該期間内に実施されているイベントに入場するためなどの「その他のチケット」等の各種チケットがあり、本判決時点では、スタジオ・パスについては90日後まで無料で入場日の変更ができる仕様となっていました。
 X側の主張は多岐にわたりますが、消費者契約法10条に関する主要な主張は下記のとおりです(その他の主張は本記事では省略します)。
【X側の主張】
(解除制限条項について)
・チケット販売契約は準委任契約(※受託者が委託者に対し事実行為の役務提供を行う契約)であり、民法上の任意解除権(同法656条、651条1項)の適用ないし準用があるところ、これを制限する点で消費者契約法10条前段に該当する。また、そうでなくとも一般的な慣習等による取扱いを制限している点で、やはり同条前段に該当する。
・解除制限条項の目的がチケット高額化の防止にあったとしても、消費者に生じる不利益が大きく、適切なキャンセル料の設定等消費者の権利に対する制限が少ない方法が存在し、消費者の認識や交渉力に格差があることやキャンセルを認める必要性や誤購入しやすい仕様であることを踏まえると、消費者契約法10条後段に該当する。

(転売禁止条項について)
・転売禁止条項は、民法で原則自由とされている債権譲渡を制限する点で消費者契約法10条前段に該当する。
・チケット高額化の防止は転売サイトの開設等で目的を達成することができること、消費者に与える不利益は直接的かつ一方的であり、転売を認める必要性が高いこと、転売を認めてもY社には不利益は生じないこと、消費者の認識や交渉力に格差があることなどを踏まえると消費者契約法10条後段に該当する。


<判決要旨-請求棄却>
(解除制限条項について)

 まず、大阪地裁は、チケットの購入契約について、売買契約類似の側面を有する一方で、USJへの入場やアトラクション等を稼働して利用させるなどする役務提供契約としての側面を有する無名契約(民法上に定めのない契約)であると解釈しました。
 その上で、チケット購入契約の任意解除権の有無については、購入者と役務内容との関連性が希薄であること、購入者からY社に対し特定の事実行為の委託等の要素が見出せないこと、民法上の委任契約・準委任契約における任意解除権(民法656条、651条1項)はそれらの契約が当事者関係の人的信頼関係に基づくことを前提としているところ、不特定多数の顧客とY社との間に人的信頼関係は認められないことを指摘し、認められないと判断しました(準委任契約にかかる民法上の規定より消費者の権利を制限しているとするX側の主張を排斥)。
 また、一定の場合を除き解除を認めないことが一般的な慣習等よりも消費者の権利を制限するというX側の主張に対しては、他のテーマパークと比較してもそのような契約慣行等が存在しているとは認められないとして、消費者契約法10条前段に該当しない、と判断しました。
 そして、解除制限条項の転売目的の購入を防ぐという趣旨及び目的には合理性があるとした上で、消費者も正規価格でチケットを入手できるという利益を得ていると評価でき、Y社のみを一方的に利するものではないこと、現在も転売行為がなされており、条項の必要性があることを指摘しつつ、適切なキャンセル料の設定等のX側が主張していた制限的でない手段を講じるべきとの主張については、「事業者において、消費者との間で消費者契約を締結するにあたっては、常に、消費者に生じ得る不利益が少ない、より制限的でないその他の方法や手段を講じることが求められているとまでは解することができない」ことに加えて、一定の対策を講じても転売防止が容易ではないことを理由にこれを排斥しました。
 さらに、エクスプレスチケットやその他チケットの日付変更が認められない点は、それらのチケットの希少性が高く転売目的者の標的となりやすく、変更後の日付にそれらのチケットの対象となるアトラクションやイベント等が実施されているかという問題もあるため、不合理な制約とはいえず、誤購入のおそれについては、各条項の内容が複数回にわたって表示されるなどの一定の配慮がなされていると認定し、消費者に一定の不利益が及ぶことは認めながらも、結論として、解除制限条項は消費者契約法10条後段に該当しない、と判断しました。
(転売禁止条項について)
「チケットの購入者には、手荷物検査、分煙、撮影、危険物等の物品の持込み禁止等のUSJの園内における各種制約等も遵守することが求められ、仮にチケットの転売が許容されたとしても、チケットを譲り受けた者は、チケットの購入者が遵守を求められていたようなこのような制約等も承継して遵守することが求められると解されるのであり、このような側面をみるとチケットの転売には、債権譲渡に還元できない要素があり、Y社とチケット購入者との間の複合的な権利義務関係としての法的地位の移転を伴うものとして、契約上の地位の移転とみるべきである」として、チケット転売を契約上の地位の移転と解釈し、民法539条の2が契約上の地位を移転するためにはその契約の相手方の承諾を必要としていることを理由に、消費者契約法10条前段に該当しない、と判断しました。
 そして、消費者に一定の不利益が及ぶ内容ではあると前置きをした上で、解除制限条項の解釈と同じく、高額転売の防止という目的には合理性があり、消費者も不利益を免れていること、実際にインターネット上で高額転売の例が見受けられ、転売禁止条項の必要性が否定できないこと、複数回消費者に注意を呼び掛けていること、常により制限的ではない手段をとることが求められているわけではないこと等を理由に、消費者契約法10条後段に該当しない、と判断しました。


<コメント>
 日本有数の大規模テーマパークであるUSJの規約が問題となった事案ですが、類似するテーマパーク(東京ディズニーランド、東京ディズニーシー、レゴランド)においてもWEBチケット購入後のキャンセルや転売が禁止されており(※本判決時)、違法なチケット転売が社会問題となっている昨今において、不特定多数の顧客に対し複合的なサービスを提供することを約するチケット販売契約にかかる裁判例として、法的にも社会的にも重要な意義を有する裁判例であると思われます。
 大規模テーマパークのチケット販売契約が無名契約であることや、その転売が契約上の地位の移転にあたり原則的に運営会社側の承諾を要することは、ある程度の一般性をもった法的解釈と言えますが、解除制限条項や転売禁止条項の必要性(実際にどの程度違法な転売事例があるか)、緩和的措置の有無やその程度(本件ではスタジオ・パスは入場予定日から90日間は日付変更が可能)、消費者への説明・周知方法(誤購入のおそれ等)は個別具体的な事情として認定されていますので、諸事情の違いによって、類似の条項が違法と判断される可能性は否定されていません。
 違法な高額でのチケット転売が減少し、解除制限条項や転売禁止条項が、「もはや必要性が低く、消費者の権利を一方的に制限するものであって違法である」といえるような社会になることを切に願います。