遺留分侵害額請求と不動産譲渡所得税

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Q1 平成30年7月の相続法(民法の相続法の分野)の改正により遺留分制度はどのように変わったのですか。
A1 
 改正前は、遺留分減殺請求によって、遺贈または贈与は遺留分を侵害する限度において効力を失い、その権利は遺留分権利者に帰属するとされていました(物権的請求権)
 しかし、遺留分減殺請求の結果、遺贈または贈与された不動産や株式が、受遺者・受贈者と遺留分権利者との共有となることが多いのですが、共有関係の解消を巡って新たな紛争を生じさせることになる、との指摘がされていました。
 そこで、今回の相続法の改正によって、遺留分権利者は、受遺者・受贈者に対し、遺留分侵害額の請求権を行使することによって、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができることになりました(債権的請求権、民法1046条第1項)。

 相続分の指定を受けた相続人に対しても、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することになります。
 例えば、相続人が被相続人の子であるA、B、Cの3人で、被相続人が相続分をAは0(ゼロ)で、BとCがそれぞれ2分の1ずつと指定しており、遺留分を算定するための財産の価格が3000万円であったします。この場合、Aの遺留分侵害額は500万円(3000万円×1/2×1/3)となり、遺留分侵害額の請求権を行使することで、BとCにそれぞれ250万円ずつの金銭支払を請求することができます。


Q2 相続法改正後の遺留分侵害額請求権の場合の課税関係はどうなるのでしょうか。
A2 
 遺留分侵害額について金銭の支払いをした場合は、金銭債務の弁済と同じく所得税の問題は生じません。相続税関係では、金銭支払いに応じて相続税の過払いになりますので、相続税を納付していれば還付請求の問題となります。
 他方、遺留分侵害額に応じて相続財産のうち不動産の一部を遺留分侵害額請求権者に譲渡した場合、譲渡所得税支払いの問題が生じます。


Q3 遺言によって不動産の取得した者としては、法定相続人による遺留分侵害額請求に応え、相続財産の一部を返還したに過ぎないので、相続税の問題はあっても所得税の支払いの問題が生じることには違和感があります。
A3 
 改正前の遺留分減殺請求権は、各相続財産に対する物権的請求権とされていたので、相続財産の一部を請求に応じて戻しても相続問題しか生じませんでした。しかし、遺留分の請求が債権的請求権に改正されると、ある資産(不動産)を金銭債務の対価として支払うのは、いわゆる「代物弁済」となり資産の譲渡となりますので、そこに所得税の課税対象の問題が生ずるのです(※)
 たとえば、相続人が被相続人の子であるA、Bの2人の事案で、Bに3000万円相当の不動産を相続させる遺言がなされた場合、AはBに対し、3000万円×1/2×1/2=750万円の遺留分侵害額請求を行えます。Bがこれに応じ、不動産の一部である750万円相当の不動産を分与した場合、Bはいったん不動産を750万円で売却し、その代金750万円をAに渡したと考えます。そして、Aはその750万円で改めて不動産を購入したと考えることになります。
 違和感があるかもしれませんが、「代物弁済」については、税務上はこのように扱われています。
 なお、相続法改正に伴って所得税課税通達も改正されています(33―1の6、33-7の2)。

※  この点は離婚における財産分与請求権でも同様な事態が起こる可能性があります。夫婦の一方の名義となっている不動産を他方に財産分与として譲渡した場合、財産分与請求権はあくまでも債権的請求なのですから、これを不動産にて支払うのは、代物弁済となるからです。


Q4 Bとしては思わぬ譲渡所得税を支払うことになってしまいますので、どのような対策が必要でしょうか。
A4 
 まず遺留分侵害額請求がある場合、金銭での支払いが可能か否か検討してください。金銭での支払いが困難な場合、譲渡所得税が発生しないよう、A(遺留分侵害額の請求権を有する者)と協議して遺言と遺留分侵害額請求に沿った内容の遺産分割協議に切り替えることも検討されてよいでしょう。


Q5 この改正はいつから適用されていますか。
A5 
 この改正は、令和元年7月1日に施行されました。従って、同日以降に開始した相続に係る遺留分侵害額の請求があった場合に適用されるので、令和元年分の確定申告から適用されています。