事業承継対策と税法・民法・会社法の活用について

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Q1. 事業承継対策がいわれて久しいのですが、どうして対策が必要なのですか。
A1. 

日本の経済を支える中小企業は、日本の企業数の約99%、 従業員数の約69%を占めており、地域経済・社会を支える存在として、また雇用の受け皿として極めて重要な役割を担っています。ところで、経営者年齢をみると、2020年では「60 歳~64歳」、「65 歳~69 歳」、「70 歳~74 歳」が多く、中小企業の活力の維持・向上のため、事業承継の円滑化に向けた取組は中小企業経営者にとってもはや待ったなしの課題であると言えます。

そして、少子化や価値の多様化による親族への経営承継が困難な状況になっており、早めの対策を講じないと、後継者に事業用資産の集中ができず親族間のお家騒動に発展したり、経営者の判断能力が低下し会社の業績が悪化するケースも出てきます。

また、事業承継が円滑にできず、やむを得ず廃業に追い込まれる企業数は毎年5万件近くとなっています。


Q2. 具体的に、事業承継はどのような対策を検討するのですか。
A2. 
 まず、事業承継計画を策定する必要があります。計画を立案するにあたっては、会社を取り巻く次のような各状況を正確に把握する必要があります。
①  会社の経営資源(従業員の数・年齢、資産、キャッシュフロー等の現状と将来見込み)、
②  会社の経営リスク(負債、競争力の現状と将来見込み)、
③  経営者自身の状況(保有する自社株式、個人名義の不動産、個人の負債・保証の現状等)、
④  相続発生時に予測される問題点(法定相続人の数および相互間の人間関係・株式保有状況、相続財産の特定・相続税の試算と納税方法の検討)、
⑤  後継者候補の状況(親族内、会社内、取引先等に候補者がいるか、能力・適性等)


Q3. 事業承継の方法はどのようなものがありますか。
A3. 

以下の3つがありますが、各承継方法のメリット・デメリットを把握するとともに承継候補者等との意思疎通を十分に行う必要があります。
(1)親族内承継は、一般的には内外の関係者から心情的に受け入れられやすいメリットがありますが、はたして当該親族が経営者としての資質と意欲を併せ持つ人材なのかが問題となります。
(2)従業員等への承継は、例えば長期間勤務している幹部社員が承継する場合経営の一体性を保ちやすいのですが、株式取得の資金力があるか、また個人の債務保証引継ぎに抵抗感があり障害となります。
(3)最終的にはM&Aを選択することもあります。この場合、会社経営者は会社売却の利益を獲得できるのですが、希望の条件を満たす買い手が見つかるかは難しい問題です。


Q4. 親族内承継で注意する点は何ですか。
A4. 

株式・財産の分配として①後継者への株式等の事業用資産の集中(目安としては、株主総会で重要事項を決議するために必要な3分の2以上の議決権)と、②後継者以外の相続人への配慮が必要です。


Q5. 株式等の事業用資産の集中のための方策としてはどのようなものがありますか。
A5. 
(1) 税法(生前贈与)の活用
 生前贈与は、後継者への財産移転のうち、オーナー経営者の生前に権利が確定されるため最も確実な方法です。生前贈与は、暦年課税制度(1年毎に贈与された価格に対して贈与税を課税する方法、基礎控除額は毎年110万円)と、相続時精算課税制度(選択により贈与時に軽減された贈与税を納付し、相続時に相続税で精算する課税制度、特別控除額2500万円)があります。
 ところで多額の贈与税、相続税がかかると円滑な事業承継が難しくなります。そこで、この問題を解決するため、平成21年に成立した「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(「経営承継円滑化法」)に基づき、平成21年度税制改正により、「非上場株式等についての相続税及び贈与税の納税猶予・免除制度」(事業承継税制) が創設されました。事業承継税制は、事業承継に伴って発生する相続税・贈与税の負担により事業継続に支障が生ずることを防止するため、一定の要件のもと、その納税を猶予・免除する制度です。また、平成30年度税制改正では、この事業承継税制について、これまでの措置に加え、10年間の特例措置として、納税猶予の対象となる非上場株式等の制限(総株式数の最大3分の2まで)の撤廃や、納税猶予割合の引上げ(80%から100%)等がされた特例措置が創設されました。
 事業承継税制では、相続税と贈与税の納税猶予及び免除制度を組み合わせて活用することで、相続のみならず生前贈与による株式の承継に伴う税負担を軽減することができ、将来にわたる円滑な事業承継が可能となります

(2)民法(遺言)の活用
 経営者が遺言を作成することで、後継者に株式を集中することが可能です。ただし、遺留分の問題から金銭トラブルが起こることがありますから注意が必要です(2019年7月1日に施行された改正相続法(改正民法)は、従前、遺留分減殺請求によって、遺贈は遺留分を侵害する限度において効力を失いその権利は遺留分権利者に帰属するとされていました。しかしその結果、遺贈された株式が、受遺者と遺留分権利者との共有関係となって新たな紛争を生じさせることになるとの指摘がされていました。そこで、相続法の改正によって、遺留分権利者は、受遺者に対し、遺留分侵害額の請求権を行使することによって、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができることになりました・・遺留分請求権の金銭債権化)。
 なお、経営承継円滑化法により、遺留分の受取りが可能な全員の合意がされたことを前提に、民法の特例の適用を受けることができます。内容は、後継者が贈与した事業用資産や非上場株式等を遺留分侵害額請求の対象外とする「除外合意」、後継者が事業を成長させたことによって株式価値が上がったときでも、相続開始時の財産を元に遺留分の算定がされる「固定合意」の2つです。

(3) 会社法の活用
 後継者やその友好的な株主に株式を集中させる方法として、会社法の種類株式を活用することが考えられます。種類株式とは、各株式の権利が同一である普通株式と異なり、配当や残余財産の分配、議決権、譲渡などに関する事項について、特典や制限があるなど、株主の権利内容が異なる定めをした株式のことです。
①  例えば、議決権制限株式を発行し、後継者には普通株を、他の子には議決権制限株式を相続させることで、後継者に議決権を集中させることが可能となります。
②  また、拒否権付き種類株式(株主総会の特定決議事項について、拒否権を有する株式、「黄金株」と言われます)を発行し、経営者が一定期間黄金株を保持し、後継者に信頼がおけるようになるまで経営ににらみを利かせることが可能となります。


Q6.従業員等への承継にはどのようなものがありますか。
A6.従業員等への承継は以下の2つのパターンがあります。
(1) 役員・従業員等の社内での承継パターン
 共同創業者、番頭格の役員、工場長等の従業員が経営を引き継ぐ場合があります。この場合、社内のコンセンサスを得られやすく、事業承継に支障がないように思われますが、経営者やその親族が保有している自社株の買取り資金のないことがあり障害となります。また、現経営者の個人資産を相続する立場にない従業員等の後継者にとっては、会社の債務を保証することが精神面も含めて大きな負担となる場合があります。
 そこで、会社の債務をできる限り圧縮したり、後継者に対し負担に見合った役員報酬を確保しておく配慮が必要となります。

(2) 取引先企業や金融機関から人材を求めるパターン
 この場合は、社内基盤がない者が後継者となりますので、従業員等に反発が予想され、慎重に進めることが肝要となります。


Q7.M&Aで会社を売却する手法にはどのようなものがありますか。
A7.
 M&Aとは、合併(Merger)と買収(Acquisition)の頭文字で、要は会社を売り買いするという意味があります。最近では、中小企業におけるM&Aの件数が格段に増加しているといわれています。その方法として以下のものがあります。

まず、会社の全部を譲渡する方法として、①合併、②株式の売却、③株式交換があります。

会社の一部を譲渡する方法として、①会社分割、②事業の一部譲渡があります。M&Aを行う際には、専門家と相談し、自社にふさわしい方法を選択することが必要です。


Q8.M&Aを成功させるためのポイントはどこにありますか。
A8.
 成功のポイントは以下のとおりです。
① 準備段階での秘密保持(役員・従業員・取引先に漏らさないこと)
② 専門的なノウハウを有する仲介機関に相談する(取引金融機関、弁護士、公認会計士、税理士、中小企業基盤整備機構等)
③ 事業承継の条件、売却金額の希望を早い段階で仲介機関に伝える
④ デユーディリジェンスの際に、交渉相手に自社の都合の悪いことでも隠さない
⑤ M&A後の会社の環境整備に気を配る
⑥ 会社の実力の磨き上げを行う
 例えば、業績の改善・伸長、無駄な経費支出の削減、貸借対照表のスリム化、セールスポイントとなる会社の強みを作る、オーナーと企業との線引きの明確化、社内マニュアル・規程類の整備、株主の事前整理等を行うこと

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