~退職代行サービスはどこまで許される?~
1 はじめに
近年、本人に代わって勤務先へ退職の意思を伝える「退職代行サービス」が広く利用されています。一方、退職には、退職日、有給休暇、未払残業代、退職金、損害賠償など、法律上の問題が伴うことがあります。弁護士又は弁護士法人でない事業者が、このような問題について本人に代わって交渉したり、法律事務を有償で取り次いだりすると、弁護士法に違反する可能性があります。
退職代行サービス「モームリ」をめぐる事件をきっかけに、退職代行と、いわゆる「非弁行為」との関係を説明します。
2 「モームリ」事件
公表された報道によれば、「モームリ」の運営会社A社は、法律事務が必要となった退職希望者を弁護士に紹介し、その対価として紹介料を受け取ったなどとして、弁護士法違反などの罪に問われました。一方、紹介を受けて紹介料を支払ったとされた弁護士及び弁護士法人Bについては、令和8年6月5日、東京地方裁判所で、代表弁護士に懲役1年6月・執行猶予3年、弁護士法人Bに罰金150万円の有罪判決が言い渡されました。
また、同年8月28日、東京地方裁判所は、退職希望者174人を弁護士に有償であっせんしたとして、A社の前社長に懲役2年・執行猶予3年、元幹部の妻に懲役1年6月・執行猶予3年、A社に罰金200万円の有罪判決を言い渡しました。裁判所は、利益を優先して法令遵守を軽視した点などを指摘しています。
さらに、同年10月7日には、紹介を受けた別の弁護士法人Cの代表弁護士に懲役2年・執行猶予3年、同法人Cに罰金200万円の有罪判決が言い渡されました。裁判所は、約9か月で89人の周旋を受け、紹介料を業務委託料と仮装していた点などを問題視しています。
また、この事件は「退職代行サービスそのものが違法」と判断したものではなく、法律事務の有償紹介等が問題となった事件です。
3 「非弁行為」とは
弁護士法第72条は、弁護士等でない者が、報酬を得る目的で法律事件に関する法律事務を取り扱ったり、その取扱いを「周旋」、すなわち紹介・取次ぎしたりすることを業とすることを原則として禁止しています。これが、一般に「非弁行為」と呼ばれるものです。
また、弁護士法第27条は、弁護士側についても、同法第72条等に違反する者から事件の周旋を受けることを禁止しています。
「法律事務」には裁判の対応だけでなく、権利義務について法的判断を行い、本人を代理して相手方と交渉することも含まれます。例えば、未払残業代や慰謝料の請求、期間途中の退職の可否などについて、勤務先と交渉する行為は法律事務に当たり得ます。
4 退職代行では、どこまで許されるのか
⑴ 本人が退職することを既に決めており、民間業者がその確定した意思を勤務先に伝えるだけであれば、直ちに弁護士法違反になるとは限りません。本人の「使者」として意思を伝達しているにとどまるからです。
しかし、勤務先から退職日、有給休暇、違約金等について異議や条件が示され、業者が本人に代わって条件を変更したり、相手方を説得したりすれば、単なる伝達ではなく交渉に当たる可能性があります。特に、未払賃金・残業代・退職金の請求、パワーハラスメントの慰謝料請求、期間の定めのある雇用契約を途中で終了できるかといった問題には法的判断が必要です。
⑵ ウェブサイトに「弁護士監修」「顧問弁護士」「労働組合と提携」などと表示されていても、それだけで民間の退職代行業者が法律相談や交渉を行えるようになるわけではありません。
民間の退職代行業者が行えるのは、基本的には、本人の退職意思を勤務先に伝えることに限られます。これに対し、労働組合法上の労働組合は、組合員の労働条件について勤務先と団体交渉を行うことができます。また、弁護士であれば、退職日の調整に加え、未払賃金、残業代、退職金、損害賠償等について法的な助言や交渉を行うことができます。
もっとも、民間業者が報酬を得て法律事件を弁護士や労働組合に取り次ぐような場合には、その内容や実態によって弁護士法上の問題が生じる可能性があります。
⑶ そのため、退職代行サービスを利用する際には、誰がサービスを運営しているのか、勤務先との交渉が必要になった場合に誰が対応するのかを確認することが重要です。特に、未払賃金や残業代の請求、退職日の調整など、勤務先との間で法的な争いが予想される場合には、単に退職意思を伝えるだけでは解決できないことがあります。
5 まとめ
退職代行サービスは、それ自体が一律に違法となるものではありません。
しかし、民間業者が退職に伴う法律上の問題について本人に代わって交渉したり、法律事務を有償で取り次いだりする場合には、非弁行為となる可能性があります。勤務先との交渉や金銭請求が必要な場合には、誰が、どの法的権限に基づいて対応するのかを確認することが重要です。