未成年者が事故を起こした場合の親権者の責任について

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Q 未成年者が運転する自転車と衝突し怪我をしました。親権者である親に対して事故により生じた損害の支払い求めることができますか。
 

A 

1 はじめに
 自転車事故の場合、自動車事故とは異なり自賠責保険の制度がなく、加害者が任意保険にも入っていないことも少なくありませんので、加害者に対して直接、損害の賠償を求めるケースが比較的多くあります。

 しかし、未成年者自身には、損害を賠償する資力がないのが通常です。そこで、被害者としては、資力のある未成年者の親権者に対して損害の賠償を請求していくことになるのですが、親権者に対する請求の可否やその根拠は、未成年者に「責任能力」があるかどうかによって異なります。少し複雑ですが、以下、説明します。
 

2 責任能力とは
(1)民法上、不法行為に基づく損害賠償責任を負うためには、責任能力が必要です(民法712条、713条)。そして、自己の行為の責任を弁識できる能力のことを「責任能力」といいます。

    未成年者の自転車事故のケースで分かりやすく言えば、事故当時、未成年者が、交通ルールを守らずに自転車を運転し、第三者に危害を加えることは法律的に許されないことなどを認識できたのであれば、未成年者に責任能力が認められることになります。

(2)責任能力の有無は、個別具体的に判断され、一定の年齢によって画一的に定まるものではなく、裁判例によっても判断が分かれています。もっとも、12歳以下、つまり小学生以下の場合は責任能力を否定するのが裁判例の傾向ともいわれており、一応の目安にはなります。
 

3 未成年者に責任能力がない場合
 未成年者に責任能力がない場合、未成年者自身は損害賠償責任を負いません。しかし、この場合、被害者としては親権者の監督義務違反を理由に民法714条に基づいて損害賠償を請求することが考えられます。

 この場合でも、親権者が監督義務を尽くしていた場合や、監督義務に違反したことと損害が発生したこととの因果関係がない場合には、親権者は民法714条の責任を負いません(民法714条ただし書)。ただし、これらのことを裁判で立証することは極めて困難といわれています。未成年者に責任能力がない場合には、親権者はほぼ間違いなく賠償責任を負うことになるでしょう。


4 未成年者に責任能力がある場合
(1)未成年者に責任能力がある場合、未成年者自身が損害賠償責任を負います。ただ、未成年者自身には資力がないことが通常ですので、未成年者に対する請求だけでは十分な被害回復を得られません。

 また、民法714条は、未成年者に責任能力がない場合の規定となっており、未成年者に責任能力がある場合にはあてはまりませんので、民法714条に基づき親権者に請求することはできないことになります。

(2)それでは、未成年者に責任能力はあるが、十分な資力がない場合、被害者は泣き寝入りしなければならないのでしょうか。

 この点、①親権者に義務違反があり、②その義務違反と損害との間に相当因果関係がある場合には、親権者についても民法709条に基づく賠償責任が認められるとする最高裁判例があります。

 親権者の監督義務違反を要件とする点で、民法714条の規定と似ていますが、これらの要件は、具体的に生じた事故との関係で厳格に判断されます。すなわち、基本的な躾を含む一般的な監督義務に違反したことでは足りず、当該事故を引き起こした行為の防止に向けられた具体的な監督義務に違反したことまで必要です。

 したがって、未成年者に責任能力がある場合でも、親権者に対して賠償を請求できないというわけではないですが、未成年者に責任能力がない場合に比べ、その請求が認められるためには高いハードルがあるといえます。

 
5 まとめ
 以上、大まかな枠組みを説明してきましたが、具体的な事案で、未成年者に責任能力があるのか、親権者に監督義務が発生するのか、親権者はどこまで監督をおこなっていればよいかなどについては、法的な判断が必要となり非常に難しい問題です。そのような事故にあわれた場合には、十分な被害回復を受けるためにも、ぜひ一度弁護士にご相談下さい。

 

<参考条文>
※民法709条
   「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

※民法714条
   「前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」