性犯罪に関係する法改正について

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 令和5年6月16日、「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」が成立し、一部の規定を除いて、同年7月13日から施行されました。
 今回は、そのうちの不同意わいせつ罪・不同意性交等罪につき解説します。


Q1 不同意わいせつ罪・不同意性交等罪に関して、どのような改正が行われたのですか。
A1 
 今回の改正は、大きく分けると、下記の4つの改正が行われました。
①強制わいせつ罪・強制性交等罪における「暴行」・「脅迫」要件、準強制わいせつ罪・準強制性交等罪における「心神喪失」・「抗拒不能」要件の改正
②いわゆる性交同意年齢(性行為に同意する能力を持つ年齢)を13歳から16歳に引上げ
③身体の一部又は物を挿入する行為の取扱いの見直し
④配偶者間において不同意性交等罪等が成立することの明確化


Q2 不同意わいせつ罪・不同意性交等罪の要件は、改正前とどこが違うのですか。
A2 
 今回の改正では、これまでの強制わいせつ罪・強制性交等罪や準強制わいせつ罪・準強制性交等罪の「暴行」・「脅迫」、「心神喪失」・「抗拒不能」といった要件を改めて、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」と規定されました。
 性犯罪の成立する本質的要素として、改正前も今回の改正でも、「自由な意思決定が困難な状態で行われた性的行為」という前提を要しています。改正前は、性犯罪の本質的な要素を満たすかどうかを、「暴行」・「脅迫」、「心神喪失」・「抗拒不能」といった要件によって判断していました。しかし、これに対しては、それらの要件の解釈により犯罪の成否の判断にばらつきが生じ、事案によっては、その成立範囲が限定的に解されてしまうのではないか、といった指摘がされていました。そこで、改正法では、性犯罪の本質的な要素を統一的な表現として「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」という要件を用いることで、より明確で、判断のばらつきが生じないものとなるように規定が改められました(※)。


1.①ないし⑧のいずれかを原因として、同意しない意思を形成、表明又は全うすることが困難な状態にさせること、あるいは相手がそのような状態にあることに乗じること。
① 暴行若しくは脅迫
② 心身の障害
③ アルコール又は薬物の影響
④ 睡眠その他の意識不明瞭
⑤ 同意しない意思を形成、表明し又は全うするいとまの不存在
  ・・・例:不意打ち
⑥ 予想と異なる事態との直面に起因する恐怖又は驚愕
  ・・・例:フリーズ
⑦虐待に起因する心理的反応
  ・・・例:虐待による無力感・恐怖心
⑧経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮
  ・・・例:祖父母・孫 上司・部下 教師・生徒などの立場ゆえの影響力によって、
  不利益が生ずることを不安に思うこと
2.わいせつな行為ではないとの誤信をさせたり、人違いをさせること、又は相手方がそのような誤信をしていることに乗じること  


Q3 いわゆる性交同意年齢について、改正法では、どうして「16歳」と改正されたのですか。
A3 
 性犯罪の本質的な要素が「自由な意思決定が困難な状態で行われた性的行為」であることからすれば、そのような自由な意思決定の前提となる能力が十分に備わっていない人に対しては、(同意の有無に関わらず)性的行為をしただけで、その性的自由・性的自己決定権は侵害されることになると考えられます。
 これまで、そのような能力の内容として、
(1)「行為の性的意味を認識する能力」が備わっていないと考えられることから、いわゆる性交同意年齢については、「13歳」とされてきました(13歳未満の被害者の場合、同意の有無にかかわらず性犯罪が成立)。
 しかし、性的行為について有効に自由な意思決定をするためには、(1)の能力だけでなく、(2)「行為の相手との関係で、その行為が自分に与える影響について自律的に考えて理解したり、その結果に基づいて相手に対処したりする能力」も必要であると考えられます。
 そして、13歳以上16歳未満(中学生くらいの年齢層)の人は、(1)の能力が一律にないわけではないものの、(2)の能力が十分に備わっているとはいえず、相手との関係が対等でなければ、性的行為に関する自由な意思決定の前提となる能力に欠けると考えられます。
 このような考え方を前提として、今回の改正法では、性交同意年齢について、「16歳」とされました。但し、相手が13歳以上16歳未満の場合には、行為者が5歳以上年長である場合に限って不同意性交等罪や不同意わいせつ罪が成立します。


Q4 改正法による「性交等」とは、何ですか。
A4 
 改正前においては、「性交等」とは、陰茎の膣への挿入(性交)、陰茎の肛門への挿入(肛門性交)又は陰茎の口への挿入(口腔性交)のことを意味していました。しかし、今回の改正法では、これらに加えて、膣又は肛門に陰茎以外の身体の一部又は物を挿入する行為についても、「性交等」に含むこととされ、対象となる行為の範囲が拡大しました。


Q5 「婚姻関係の有無にかかわらず」とはどういう意味ですか。
A5 
 改正前においても、行為者と相手方の間に婚姻関係があるかどうかは、性犯罪の成立に影響しないと考える見解が一般的でした。
 しかし、このような理解は条文上明らかにされておらず、学説の一部には、配偶者間の性犯罪の成立を限定的に解する見解もあることから、今回の改正法では、不同意わいせつ罪や不同意性交等罪が配偶者間でも成立することを、確認的な意味で条文上明確化しています。