民事裁判手続のIT化について

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1 民事裁判手続のIT化

令和4年5月25日、裁判所に対する訴状や準備書面の提出をオンラインで可能とすることや口頭弁論でウェブ会議の活用を認めることなどを盛り込んだ、改正民事訴訟法が可決・成立し、公布されました。これによって、民事裁判の手続きは、2025年度までに段階的にIT化されることになります。

コロナウイルスの蔓延により、社会では、在宅ワークが一般化してきました。裁判手続きにおいても、現在、一部の裁判所では、法の解釈により、書面による準備手続や弁論準備手続などを、Microsoft 社が提供するソフトウェア「Teams」を用いたウェブ会議の方法で行っています。

改正民事訴訟法では、口頭弁論についても、ウェブ会議の活用を認めるとともに、民事裁判書類電子提出システム(mints ※1)で訴状や準備書面の提出をオンラインでできるようになります。

2 委任を受けた訴訟代理人に対するオンライン提出の義務付け

実は、平成16年の民事訴訟法改正により、一部の申立てについてオンラインで行うことができるとされていました(現行法132条の10)。しかし、この規定はほとんど利用されることなく、運用が停止されていました。

このような状況を踏まえ、改正民事訴訟法では、裁判所への訴状や準備書面等の提出について、オンラインでの手続きを可能とした上で、弁護士などの委任を受けた訴訟代理人にはオンラインでの提出を義務づけることとなりました(新法132条の11第1項1号。同項2号、3号では国の利害に関係のある訴訟について指定を受けた代理人、地方自治法により委任を受けた職員も規定されていますが本敲では省きます。以下同様)。義務付けの対象は、「委任を受けた訴訟代理人」であるため、後見人や破産管財人などの訴訟代理人の立場にない者は、オンライン提出は義務付けられていません。

オンライン提出が義務付けられると、パソコンや通信環境の不具合により、オンライン申立ができないと、提訴により消滅時効の更新をしたい場合に不都合が生じます。そこで、例外的に、「裁判所の使用にかかる電子計算機の故障その他その責めに帰することができない事由により、電子情報処理組織を使用する方法により申立て等を行うことができない場合」には、書面での申立が可能となっています。また、上記のような場合で不変期間が遵守できなかった場合は、そのような事由が消滅した後1週間に限り訴訟行為の追完が可能となっています。

ただし、今回の義務付けの対象は、弁護士などの委任を受けた訴訟代理人なので、本人であれば書面で申し立てをすることが可能です。そこで、究極的な場合には、一旦、本人名で書面により申し立てをすることも一つの手段となりうるでしょう。

3 送達

電磁的記録の送達は、その記録を出力した書面により行います。

ただし、送達を受けるべき者が、電磁的方法により送達を受ける旨の届出をしている場合は、電磁的方法により送達がなされます。そして、訴訟代理人は、委任を受けた事件については、電磁的方法により送達を受ける旨の届出をしなければなりません。したがって、相手方に代理人が付いている事件で、相手方が裁判所に委任状を出していれば、電磁的方法による送達が可能です。

電磁的方法による送達は、記録を閲覧または複写できる状態に置くか送達を受けるべき者に対して記録を閲覧または複写できる状態に置いた旨の通知を発する方法によりなされます。閲覧とは、まさに、記録を見ることができる状態を指し、複写とは、記録をダウンロードできる状態をいいます。

送達を受ける者が、閲覧・複写をしたときか、上記通知が裁判所から発送され1週間を経過したときのいずれか早い時期に送達の効力が発生します。

これまでの送達は、書面が相手方又は相手方代理人の住所に送られていました。しかし、今後は、電磁的になされることを受け、当事者本人、代理人又はその双方になされることが可能です。したがって、訴訟代理人が認識しない間に本人が閲覧・複写することにより送達の効力が生じる可能性があるので、注意が必要です。

また、裁判所が記録を閲覧又は複写できる状態においた旨の通知を発送してから1週間が経過したときには「みなし送達」の効力が発生します。みなし送達の規定によって、たとえば、これまで、年末年始などの長期休業期間に判決を受ける時は、事務所を閉めて事実上受け取らない事により、送達の効力が生じないようにしていた事務所もあるかもしれませんが、送達をしたものとみなされてしまうことに注意が必要です。

4 施行日

なお、改正民事訴訟法の施行日は、令和4年5月25日の公布日から起算して4年を超えない範囲内において政令で定める日とされていますが、弁論準備手続の完全オンライン実施、ウェブ会議等による和解期日に関する規定は、公布日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日、口頭弁論のオンライン実施に関する規定は、公布日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日とされました。

以上の通り、裁判手続きのIT化で、各段階の手続についても法改正がなされています。今後は、各弁護士事務所において、オンライン提出の準備や訴訟記録のデータ管理などが急務となりそうです。

 


※1 民事裁判書類電子提出システム(mints)とは

mintsは、現行民訴法132条の10等に基づき、裁判書類をオンラインで提出するためのシステムです。対象となるのは、準備書面、書証の写し、証拠説明書など、民訴規則3条1項によりファクシミリで提出することが許容されている書面です。