抵当権の実行による建物買受人と建物賃借人の優劣

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Q1、私は賃貸マンションの一室を賃借していますが、大家のAさんが借入金を返済できず抵当権の実行によってマンションが競売され、Bさんが買受人となりました。私はマンションに住み続けることができますか。

A1、ご質問については、抵当権の設定登記がなされた時期と、あなたがマンションの一室を賃借し入居した日の前後によって異なります
 あなたがマンションを借り受け入居した後に抵当権が設定されていれば、建物賃借権が抵当権に優先します。従って、あなたは競売によるマンションの買受人Bさんに対抗することができ、居室を明け渡す必要はありません。この場合、新所有者であるBさんが賃貸人の地位を承継することになりますので、今後の家賃はBさんに支払うことになります。


Q2、どうやら抵当権はマンション建築資金を融資した金融機関が設定していたようで、マンションの保存登記と同時に付けられているようです。

A2、そうであれば抵当権が建物賃借権に優先しますので、あなたは買受人Bさんに対抗できません。Bさんから居室の明け渡しを求められれば応じざるを得なくなります。
 もっともBさんが収益物件としてマンションを買い受けた場合、Bさんは賃借人の明け渡しを望まず、新たな賃貸借契約を求めてくるかもしれません。その場合、新しい賃料額の設定とともに、敷金または保証金の差し入れを求められることになります。


Q3、私はAさんに敷金を差し入れていますので、二重の負担は困ります。

A3、Q2の場合、BさんはAさんから賃貸人の地位を引き継がず、従って敷金返還債務もAさんに残ります。あなたは差し入れた敷金をAさんに請求することになり、Bさんとの間では新しい賃貸借契約の締結となるので、新しい敷金も協議する必要があるのです。


Q4、Bさんと新しい賃貸借契約が結べなければどうなりますか。

A4、かつては、民法で「短期賃貸借保護制度」が規定され、3年を超えない建物賃貸借は、抵当権の設定後に契約されても、その間は抵当権者に対抗できるとされていました。
 この制度は、抵当権設定後の抵当不動産の賃借利用を一定限度で保障する制度でしたが、占有屋等による競売執行妨害に濫用されるという弊害がありました。また賃貸借契約の更新時期と競売のための差押え登記の期日とが近接しているかどうかという偶然の事情により、賃借権を継続できる期間に著しい格差が生じるという問題点もありました。
 そこで、平成15年8月1日に公布された「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律」により、平成16年3月31日以降、短期賃貸借保護制度は廃止されました。
 従って、抵当権に対抗できない建物賃借人は、賃借建物を明け渡さなければなりません。


Q5、しかし、すぐに明け渡せと言われても移転する先が直ちには見つかりません。

A5、確かにBさんに対し建物賃貸借契約を主張することはできませんが、競売という不測の事態から保護される必要性はあります。そこで平成16年施行の改正民法は、競売開始前から建物を使用・収益する者は競売による買受時から6か月は建物の明け渡しを猶予されるとしました(民法395条第1項)。これを「明渡し猶予制度」といいます。
 この猶予制度は、競売手続き開始後に建物を借りた賃借人には認められません。また、賃借人が猶予期間中に賃料相当額を滞納した場合(催告後の不履行)、猶予期間は消滅することになります(同条第2項)。
 なお、買受人のBさんは賃貸人の地位を承継するわけではないので、A3のとおり敷金関係も承継せず、あなたは居室の明け渡し時にBさんに敷金返還を請求することもできません。