宅建業法違反の名義貸し取引による利益分配の合意は公序良俗に反し無効とした最高裁判例

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(最高裁判所令和3年6月29日判決(裁判所HP))


1、事案の概要
(1)Xは、xを専任の宅地建物取引士として宅地建物取引業の免許を受けた会社である。Yは、Xの名義を借りて不動産取引に係る事業を行う計画を立て、Xとの間で、Yの行う取引が成就した場合は名義借りの報酬を支払う旨の以下の合意をした。
 ア、本件不動産の購入および売却についてはXの名義を用いるが、Yが売却先を選定した上で売買に必要な一切の事務を行い、本件不動産の売却に伴って生ずる責任もYが負う。
 イ、本件不動産の売却代金はYが取得し、その中から、本件不動産の購入代金及び費用等を賄い、Xに対して名義貸し料として300万円を分配する。Xは、本件不動産の売却先から売却代金の送金を受け、同売却代金から上記購入代金、費用等及び名義貸し料を控除した残額をYに対して支払う。
(2)Yは、Xに対し、本件不動産の売却代金からその購入代金、費用等及び名義貸し料を控除した残額が2319万円余りとなるとして、Xが同売却代金の送金を受け次第、本件合意に基づき同額を支払うよう求めた。Xは、上記売却代金の送金を受けたが、自らの取り分が300万円とされたことなどに納得していないとして上記の求めに応じず、Yに対し、本件合意に基づく支払の一部として1000万円を支払った。
(3)本件本訴は、Yが、Xに対し、本件合意に基づいてYに支払われるべき金員の残額として1319万円余りの支払を求めるものであり、本件反訴は、Xが、Yに対する1000万円の支払は法律上の原因のないものであったと主張して、不当利得返還請求権に基づき、その返還等を求めるものである。
(4) 原審の東京高等裁判所は、前記事実関係等の下において、本件合意の効力を否定すべき事情はなく、本件合意の効力が認められると判断して、Yの本訴請求を認容し、Xの反訴請求を棄却すべきものとした。


2、判断

宅建業者が無免許者にその名義を貸し、無免許者が当該名義を用いて宅地建物取引業を営む行為は、宅地建物取引業法12条1項及び13条1項に違反し、同法の採用する免許制度を潜脱するものであって、反社会性の強いものというべきである。

そうすると、無免許者が宅地建物取引業を営むために宅建業者との間でするその名義を借りる旨の合意は、同法12条1項及び13条1項の趣旨に反し、公序良俗に反するものであり、これと併せて、宅建業者の名義を借りてされた取引による利益を分配する旨の合意がされた場合、当該合意は、名義を借りる旨の合意と一体のものとみるべきである。

したがって、無免許者が宅地建物取引業を営むために宅建業者からその名義を借り、当該名義を借りてされた取引による利益を両者で分配する旨の合意は、同法12条1項及び13条1項の趣旨に反するものとして、公序良俗に反し、無効であるというべきである

として原審を破棄し差し戻した。


3、コメント
(1)ある私的取引が法令に違反する場合、取引当事者間の私的取引も無効となるか否かは法令の内容を検討し決する必要があります。法令の中でも強行法規、すなわち公の秩序に関する法規は、個人の意思によって左右することを許さないので、当事者間の私的取引がこれに違反するときは、その取引は無効となります(民法91条は間接にこのことを規定しています)。

(2)法律が特に厳格な標準で一定の資格ある者に限って取引をすることができるとしている類似事例として、鉱業権者でなければ鉱物の採掘事業を行うことができない場合、商品取引所の商品仲買人でなければ商品取引所の一定商品の取引ができない場合、鉱業権の貸借(斤先堀契約)、仲買人名義の貸借(名板貸契約)がしばしば行われますが、かような契約は、法律がその企業ないし取引をするものを監督しようとしている趣旨に反するため、一般に無効と判断されています。

(3)本件の宅地建物取引業法は、宅地建物取引業を営む者について免許制度を採用して、欠格要件に該当する者には免許を付与しないものとし、免許を受けて宅地建物取引業を営む者に対する知事等の監督処分を定めています。そして、同法は、免許を受けない者が宅地建物取引業を営むことを禁じた上で、宅建業者が自己の名義をもって他人に宅地建物取引業を営ませることを禁止しており、これらの違反について刑事罰を定めています。
 同法が宅地建物取引業を営む者について上記のような免許制度を採用しているのは、その者の業務の適正な運営と宅地建物取引の公正とを確保するとともに、これにより購入者等の利益の保護等を図ることを目的とするものと解されます(同法1条参照)。

 以上に鑑みると、宅建業者が無免許者にその名義を貸し、無免許者が当該名義を用いて宅地建物取引業を営む行為は、同法の採用する免許制度を潜脱するものであって、反社会性が強く、強行法規に反すると解されます。
 したがって、最高裁判所の判断は妥当と評されます。