(東京地裁令和5年10月6日判決)
自転車事故における被害者救済の必要性から、条例によって自転車損害賠償保険等への加入を義務化する動きが広がっており、国土交通省によると、令和6年4月1日時点で、34都道府県(愛知県を含む)が加入の義務付けを行い、10都道府県が加入の努力義務を条例で定めています。
本記事では、令和2年4月から自転車損害賠償保険等への加入が義務付けられた東京都において、未加入者の未成年者が自転車事故を起こした際に、保険未加入を理由として両親の監督責任が認められた裁判例をご紹介します。
【事案の概要】
小学2年生であった原告が、歩道を駆けていたところ、中学2年生であった被告Y1の自転車が走行してきたため、それを回避しようとして転倒し、骨折等の傷害を負ったという事案です。
原告側は、令和2年4月から東京都内において義務化された自転車保険にも加入しておらず、自転車を運転する子を持つ親としての自覚が欠如しているなどとして、被告Y1の両親(被告両親)にも監督義務の懈怠を理由として、損害賠償請求を行いました。
【裁判所の判断(一部抜粋)】
「証拠(甲18)及び弁論の全趣旨によれば、東京都内においては令和2年4月1日から未成年の子が自転車を利用するときは、保護者において自転車の利用によって生じた他人の生命または身体の損害を賠償する自転車損害賠償保険等への加入が義務付けられていたことが認められるところ、これは、近時、自転車による事故の損害賠償が高額化する事例が散見されることに鑑み、被害者の保護に欠けることのないよう、保険加入が義務付けられたものと解される。
このような保険加入義務化の趣旨に鑑みれば、同日以降、東京都内において、自転車損害賠償保険等に加入しないままその保護する子に自転車を運転させていた保護者は、その一事をもってしてもその子のする自転車の運転に対する監督義務を果たしていないものというべきであり、本件事故時、自転車損害賠償保険等に加入しないまま被告Y1に自転車を運転させていた結果、原告を本件転倒事故に至らしめたことについては、被告両親にも共同不法行為責任があるものというべきである。」
【コメント】
未成年者が交通事故のような不法行為によって被害者に損害を負わせた場合、未成年者が責任無能力者(※一般的に小学校卒業に満たない程度とされます)であれば、加害者の両親側(監督責任者側)が監督義務を尽くしたことを立証しなければ、当該不法行為について加害者の両親が監督責任を負うものとされていますが(民法714条1項)、未成年者が責任能力を有する場合には、被害者側において両親の監督義務違反を立証しない限り、両親の賠償責任は認められません。
そして、被害者側において、両親の監督義務違反を立証するには、例えば、未成年者に犯罪歴、補導歴、非行歴等があるにもかかわらず適切な指導監督を行わなかったことなどを示す必要があるため、一般的に被害者側の立証活動は困難であると考えられています。
今回の裁判例で問題となった自転車損害賠償保険等への加入の有無は、被害者への十分な賠償の確保のためには大きな意味があるものの、加害者となった未成年者が事故を起こす危険性自体を直接的に高めているわけではありません。したがって、自転車損害賠償保険等に未加入であったとしても、せいぜい普段からの両親の子どもに対する自転車運転への指導監督の不十分さを推測させるだけであり、直ちに監督責任の懈怠が認められるわけではないと考えることも可能です。
しかしながら、東京地裁は、条例による保険加入義務化の趣旨を重く捉え、保険未加入で子どもに自転車を運転させていた保護者は、「その一事をもってしても」監督義務違反が認められると示しています。すなわち、保険未加入を両親の監督義務を認定する上での1つの事情として考慮するにとどめるのではなく、保険未加入であれば、それだけで監督義務違反が認められるという解釈に立っていることになり、交通事故実務において、極めて画期的な判断であると思われます。
東京地裁の判決は、自転車損害賠償保険の加入につき、努力義務を定めるにとどめている都道府県での同様の事案について直ちに射程が及ぶわけではありませんが、圧倒的多数の都道府県が保険加入の義務化を行っており、今後、責任能力を有する未成年者の自転車事故の事案では、被害者側からこの裁判例を参照した主張が行われることが想定されます。
未成年者のお子様のいる方は、自転車損害賠償保険等の未加入がないようにくれぐれもお気をつけください。