就業規則の不利益変更に関する裁判例

カテゴリー
ジャンル

(熊本地裁平成26年1月24日判決)
~就業規則の不利益変更と個別合意~
【掲載誌】労判1092号62頁、労働判例ジャーナル26号2頁

1、事案の概要
 本件は、Y信用金庫との間で労働契約を締結しその後退職した職員Xらが、Yが導入した役職定年制に伴う就業規則の変更は無効であると主張し、Yに対して、役職定年制が適用されなかった場合の給与等の支払いを求めた事案です。
 役職定年制とは、職員が、役職ごとに定められた役職定年年齢に到達した日以後に迎える人事異動時に役職から離れ、以後、「専門職」又は「専任職」と呼ばれる職務に従事する制度です。この制度の導入により、Xらは、役職定年に到達した55歳から定年を迎える60歳までの間の給与が削減されました。Yは、この制度を導入する際、職員らに対し説明及び意見聴取を行い、また、Xらの一部から「役職定年制規程を導入することに係る意見書」と題する書面に「異議ありません」と記載したうえ署名、押印したもの(以下「意見書」といいます。)を受領しました。

2、裁判所の判断
(1)本件就業規則の変更は、合理的なものであるとは認められない。
(2)合理性がない就業規則の変更であっても、当該就業規則の変更について労働者の個別の同意がある場合には、当該労働者との間では就業規則の変更によって労働条件は有効に変更される。
(3)Xらのうち意見書を提出した者については、就業規則の変更に同意したと認められ、その者との関係では本件就業規則の変更によって労働条件が有効に変更された。
(4)その他の者との関係では、本件就業規則の変更は無効である。

3、コメント
(1)本件就業規則の変更は、労働者の不利益が大きいこと、変更の必要性が高度でないこと、代替処置が不十分であること等の理由から合理性がないと判断されました。
 就業規則の不利益変更は、その規則条項が合理的なものである場合に限って有効となります。労働契約法10条はこの合理性の判断基準の明確化を目指しましたが、最近においても多様な判断が示されており予測可能性という点では必ずしも明確ではありません。
(2)合理性がない就業規則の変更であっても、労働者の個別の同意がある場合には有効となりますが、この個別の同意の有無については慎重な判断が要求されており、本判決においても、「労働者が当該変更によって生じる不利益性について十分に認識した上で、自由な意思に基づき同意の意思を表明した場合に限って、同意をしたことが認められる」と判示されています。
 この自由な意思については、本判決を含め、会社の説明を受け書面等で明確な意思を表示した場合には認められる傾向にあるようです。
(3)就業規則の不利益変更における合理性や労働者の個別同意については、事案ごとに個別具体的な検討が必要となりますので、疑問に思ったら弁護士にご相談ください。