親の監督責任に関わる新たな最高裁判決

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(最高裁平成27年4月9日第一小法廷判決)

1、事案の概要
 本件は、自動二輪車を運転して小学校の校庭横の道路を進行していたBさん(当時85歳)が、その校庭から転がり出てきたサッカーボールを避けようとして転倒して負傷し、その後死亡した事案です。
 そして、Bさんの権利義務を承継したXさんらが、そのサッカーボールを蹴ったC君(当時11歳)の父母であるYさんらに対し、民法714条1項(親の監督責任)に基づく損害賠償等を請求しました。
 原審の大阪高等裁判所では、C君の監督責任者としては、そもそも本件ゴールに向けてサッカーボールを蹴らないよう指導する監督義務があり、Yさんらはこれを怠った、として、民法714条1項(親の監督責任)に基づく損害賠償(1180万円)を認めました。

2、裁判所の判断
(1)判断基準
 責任能力のない未成年者の親権者は,その直接的な監視下にない子の行動について,人身に危険が及ばないよう注意して行動するよう日頃から指導監督する義務があると解される。
 親権者の直接的な監視下にない子の行動についての日頃の指導監督は,ある程度一般的なものとならざるを得ないから,通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は,当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り,子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。
(2)本件での判断 (責任否定)
 本件ゴールに向けたフリーキックの練習は,本件の事実に照らすと,通常は人身に危険が及ぶような行為であるとはいえない。
 Cの父母であるYらは,危険な行為に及ばないよう日頃からCに通常のしつけをしていたというのであり,Cの本件における行為について具体的に予見可能であったなどの特別の事情があったこともうかがわれない。
 そうすると,本件の事実関係に照らせば,Yらは,民法714条1項の監督義務者としての義務を怠らなかったというべきである。

3、コメント
 未成年者の内、不法行為に関する責任能力がない者には賠償責任を認めることはできないこともあり、被害者救済の見地から、従前の裁判例は、責任能力がない子供が起こした事故によって親が賠償を求められた訴訟で、ほぼ例外なく親の責任を認定してきました。
 そのため、今回の最高裁判決は、“画期的判断”と評されることが多いようです。
 もっとも、「通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた」のかどうか等、個別の事案で判断が容易ではない場面も多く生じうると思われ、結局は、事案ごとに詳細な分析が必要になるでしょう。